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炎のなかへ

/229 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

 時田家の人々のときのように避難民に爆弾の落下を警告すれば、この人たちを死の淵(ふち)から救えるかもしれない。そのためには、あの苦しく恐ろしい死をもう一度体験しなければならなかった。タケシは歯をくいしばって、震えを押さえこんだ。

 炎に直接全身をあぶられる熱さ、肌の表が焼け焦げていく火傷(やけど)の痛みを思いだす。髪が燃え、爪が燃え、眼球までからからに乾いて燃えていくのだ。思いだしただけで、全身に恐怖の汗をかいた。あそこにいた人たちは、タケシをアメリカのスパイ呼ばわりし、母さんのことをアメ公の妾(めかけ)と嗤(わら)ったやつらじゃないか。そんな者のために、あの死の苦痛を自分が味わう必要があるだろうか。

 迷いながらタケシは周囲を見た。避難民は散りぢりに逃げていく。登美子と君代は爆弾の穴に向かって手をあわせていた。焼夷(しょうい)弾にやられちまえと叫んだ千寿子でさえ、青い顔で拝んでいた。ああ、これは自分がいくしかないんだな。タケシは淋(さび)しく笑いながら、顔をあげて通りの向かいに目をやった。塀の反対側には、銅葺(どうぶ)きの商家が続いていた。銅板は炎の熱でめくれあがり、家々は盛んに炎を噴きあげて…

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