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NYビート

閉鎖された核ミサイル基地に行ってみた

核ミサイル基地に住むエド・ペデン氏。核弾頭を積んだICBMが配備されていた場所につながるトンネルI=2018年8月7日、國枝すみれ撮影

 冷戦時代の核ミサイル発射基地に民泊できると聞いて、米中西部カンザス州ドーバーを訪れた。

 トウモロコシや大豆の畑が広がる。道路が未舗装になった。ミサイル基地ロードという名前の道をしばらく走ると、不思議な形のコンクリ施設と「サブテラ・キャッスル(地下の城)」と書かれた標識が現れた。民泊サービスはもうやめたそうだが、元教師でオーナーのエド・ペデンさん(71)が歓迎してくれた。

地中の異界へと続くトンネル

60年代前半の核ミサイル基地。ミサイルは地下に水平に横たわっていた=米中西部カンザス州ドーバーで2018年8月7日、國枝すみれ撮影

 ここには1961~65年、核弾頭を積んだ大陸間弾道ミサイル(ICBM)アトラスE型1基が配備されていた。

 「ミサイルは長さ約26メートル。北半球全体1万キロ以上を射程に収め、4メガトンの核弾頭を積んでいた」。ペデンさんの説明だ。

 基地は、ミサイルが空に向けて垂直に立った形で配備されるサイロではなく、水平に寝ている棺おけ型ランチャーといわれるタイプだった。発射するには、屋根を開け、巨大なクレーンでミサイルを引き起し、燃料を充てんする必要があった。

 外からはこんもりした丘にしか見えない。すべては地中にある。丘の側面にある入り口から巨大コイルのようなトンネル通路を通り、ミサイルが配備されていた場所に行く。コンクリート壁は18インチ(約46センチ)の厚さ。ミサイルを引き起こすのに使われた黄色いクレーンの爪とチェーンの一部がまだ残る。ペデンさんが地面にある扉を持ち上げ、「中をのぞいてみろ」と促す。地下にはがらんとした空間があり、落ちたら死にそうだ。ミサイル発射時の噴煙はここを通って地上に噴き出すシステムだったという。液体酸素を酸化剤とする液体燃料は隣室に貯蔵されていた。

核ミサイルのターゲット示す二つのボタン

 再びトンネルを通る。

核ミサイル基地だった施設を案内するエド・ペデンさん。ミサイルが水平に横たわっていた場所=米中西部カンザス州ドーバーで2018年8月7日、國枝すみれ撮影

 「ここがオペレーションルームだった場所だ」。ペデンさんの後に続いて部屋に入っておどろいた。核弾頭を積んだICBMなのだから、もっと複雑で巨大な装置を予想していたが、目の前にある灰色の機械は大きめの机ほどの大きさしかない。目についたのは核ミサイルを撃ち込むターゲットのボタンだ。AとBの二つがあり、Bが選択してある。ペデンさんによると、モスクワとサンクトペテルブルク(当時レニングラード)にセットされていたらしい。当時は24時間体制で3人のクルーが勤務し、ミサイル発射の指令に備えていた。

使い物にならず4年で閉鎖

 発射準備に時間がかかるため、たった4年しか使われず、基地は閉鎖された。ソ連のICBM攻撃に間に合わないからだ。

 「1基に政府は330万ドルも使ったんだ。今の金額に換算すれば2700万ドル(約30億円)だ。全く税金の無駄だ」。ペデンさんはあきれる。

 アトラスE基地の建設時に大統領だったのはアイゼンハワー大統領(53~61年)。退任演説で「軍産複合体の影響力が、我々の自由や民主主義的プロセスを決して危険にさらすことのないようにしなくてはいけない」と述べ、肥大化する軍事産業が将来、政治や経済体制を支配する危険性を警告したことで有名だ。

 米政府は廃止したミサイル基地を地元自治体に提供したが、多くは放置された。ペデンさんは83年にこの施設を4万ドルで購入し、自宅に改造した。買い取ったときは、雨水で半分水没し、壊されたコンクリ塊や鉄筋などが施設内に放置されていたという。

 ペデンさんはまるで核基地の「墓守」だ。改造した自宅の大部分は地下にある。

 オペレーションルームの近くには「祈り」のための部屋を設置した。キリスト教会から買い取ったステンドグラスに加え、ロシア正教、仏教など、世界のさまざまな宗教に関連するオブジェがところ狭しと並ぶ。

 「浄化が必要だからね」。ペデンさんは若い頃から反戦運動に浸ったという。壁には「戦争は答えではない」と大書してある。「2人の息子を失い、悲しむ祖父母を見て育ったから、反戦になったのかもしれない」。第二次世界大戦で戦死した伯父の写真が飾ってあった。

 アトラスE型ICBMは中西部カンザス、山間部ワイオミング、西部ワシントンの3州に合計27基配備されていた。ミサイルが垂直に立つアトラスF型のサイロは全米で72カ所も建設された。ペデンさんは使われなくなったサイロを販売する不動産エージェントもしている。核戦争時の避難所に使うなどの目的で高額で買う富豪もいるのだ。

墓守の思い「どうすれば人々の心を変えられるのか」

 広島、長崎に原爆が投下されてから73年たったが、世界は今も核の恐怖から逃れられない。国連のアントニオ・グテレス事務総長は9日、長崎の平和記念式典で訴えた。「2017年の世界の軍事費は1.7兆ドル以上となり、冷戦後で最大レベルに達した。世界の人道援助に必要な金額の80倍だ」と嘆き、核保有国に軍縮を迫った。

 最大の軍事大国は米国だ。6391億ドル(約71兆円)を18年会計度の国防予算として計上し、核兵器の近代化を続ける。トランプ米大統領は6月、宇宙軍の創設を決める大統領令に署名し、「宇宙に米国の覇権を打ち立てる」と宣言した。

 アイゼンハワーが恐れていたことが現実になった米国。核ミサイル基地の墓守ペデンさんは「どうすれば人々の心を変えられるのか」というタイトルの本を線を引きながら読んでいた。【國枝すみれ】

國枝すみれ

1991年入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、西部本社福岡総局で警察担当記者、ロサンゼルス支局、メキシコ支局を経て、2016年4月からニューヨーク特派員。05年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

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