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炎のなかへ

/232 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

「未来なんてわかるはずがない」

 タケシは唇を噛(か)み締めた。ほんとうに時田家の家族を守れる未来がわかるのなら、苦労はなかった。自分の死によって数十秒前の世界に戻ることができても、それがなんだというのだ。実際にそのときを必死に生きて、とり返しのつかない失敗をやらかしてからでなければ、やり直すことはできない。それなら普通の人と変わらないではないか。できることよりもできないことのほうが遥(はる)かに多いのだ。さっきも爆弾が落ちてくるのがわかっていたのに、国民学校の避難民を救うことさえできなかった。

 心身の異変も心配だった。自分で選んだとはいえ、炎のなかで焼死するのは恐ろしい苦痛だ。それが心と身体(からだ)にぬぐえない傷痕を残している。今も全身の震えがとまらない。背中が丸くなるのは焼け死んだときの姿勢に戻ろうとしているのか。目は自然に泳いでしまった。きっと炎が恐ろしくてまともに見られないせいだ。こんなふうに何度も炎のなかに飛びこんでいけば、不死身の身体よりも先に心が壊れてしまうのではないか。

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