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ラテンアメリカから

住宅不足が招く深刻な空きビル不法占拠

不法入居ビルが火災で倒壊した現場。当局ががれきを撤去していた=サンパウロで2018年5月4日、山本太一撮影
火災後、テントで避難生活を送る不法入居ビルの住民=サンパウロで2018年5月4日、山本太一撮影

 南米の最大都市ブラジル・サンパウロ市で、貧困層が老朽化した空きビルに不法入居する問題が深刻化している。5月には約400人が住む高層ビルで火災が起きて倒壊し、7人が死亡した。火災から3カ月たったが、行政の場当たり的な対応が目立つ。

 火災3日後の5月4日、オフィスビルやマンションが並ぶ市中心部の現場を訪ねた。高さ約5メートルのがれきから煙がくすぶり、焦げ臭いにおいが漂う。消防や警察がショベルカーでがれきを撤去し、行方不明者を捜索していた。被災者は近くの教会の敷地に張られたテントで避難生活を送っていた。

 24階建てビルの3階に住んでいたアジウソンさん(48)が取材に応じた。「寝ていたら『バーン』と大きな音がし、跳び起きた」。5月1日午前1時半すぎに出火した火災を振り返った。熱気と煙が迫る中、妻(46)と長男(4)を慌てて起こして逃げ出した。ビルは約1時間半後に倒壊した。5階で電気回線がショートして出火し、耐火性の低い構造のビル全体に燃え広がって倒壊したとみられている。

 アジウソンさんは「お金も身分証明書も何も持ってくる余裕がなかった」と途方に暮れた。貧富の格差が激しいブラジルでも特に貧困層が多い北東部の出身。約20年前、職を求めてサンパウロ市郊外のスラム地区「ファベーラ」に移り住んだ。人通りが多い市中心部で水や菓子を路上販売していたが、交通費が高かった。数年前、中心部に近い現場ビルに転居した。空きビルを不法占拠した団体が、安い賃料で貧しい人々を入居させるのだ。アジウソンさんは「多少、危険があっても今後も便が良い中心部の不法占拠ビルに住みたい」と話す。上下水道などインフラが未整備なファベーラより、交通アクセスが良く、最低限の設備が整った空きビルを好む傾向がある。

被災者に行き場なく、公営住宅は数十年待ちも

 連邦政府所有の現場ビルは2012年、空きビルになった。連邦政府から市への所有権移転手続きが進まず、管理はずさんだった。そこに目をつけたのが、憲法に基づく「居住権の保障」を主張する市民団体だ。団体は貧困層やホームレス、外国人を住まわせて、月200~400レアル(約5700~1万1400円)の家賃を徴収する。不法占拠を黙認させるため周辺の建物の警備員らに金を払う一方で、家賃を着服していたとの情報もある。団体メンバーは火災後に行方をくらまし非難された。市内では約100の市民団体が同様の活動をしているとされ、貧困層の権利拡大を訴える街頭デモも行う。

 市はこれまでに約300世帯を被災者と認定。1カ月目に1200レアル(約3万4000円)、その後は毎月400レアル(約1万1400円)の住宅補助を出し、新居探しを求める。貧困層向けに分譲される格安の公営住宅もあるが、11万人が申し込んでいて入居待ちが数十年に及ぶ人もいる。中心部の1DKマンションの家賃は約1000レアル(約2万9000円)かかるため、被災者が公営や民間の適切な住宅に入居するのは極めて難しい。

 多くの被災者は被災者用テントを退去したが、他の不法入居ビルやファベーラに移ったり、路上生活を送ったりしている可能性がある。火災時に住んでいなかったホームレスらが被災者を偽って申請をしたり、テントに住みついたりして混乱が続く。

 現場ビルは1960年代に建設。消防当局は15年、防火対策の不備を理由に火災時の危険性を指摘したが、対策はとられなかった。スプリンクラーや消火栓の不備が被害拡大の一因と指摘される。

深刻な住宅不足、解決には「100年以上」

 市内では建物約200棟に4万6000世帯が不法入居する。特に市中心部では増加が目立っており、13年に42棟だったのが昨年は70棟になった。公的機関の管理がずさんだったり、所有者の死亡時に相続されないで放置されたりしたビルもある。市は火災を受けて実態調査し、火災や倒壊の危険性が高い4棟を立ち入り禁止にした。住民に住宅補助を払って立ち退きを求めるが、多くは行き場はないとみられる。

 市は13年から1万8000戸の公営住宅を建設し、貧困層の転入を促す。20年までに2万戸以上を増やす予定だ。だが、不法占拠ビルに加え、違法に土地を占拠した市内約1700カ所のファベーラに約40万戸があり、市は50万戸近くが不足すると見積もる。市当局者は地元メディアに「全市民に適切な住宅を提供するには100年以上かかる」と話した。

 10月の大統領選挙に向けた討論が本格化しているが、不法入居問題はほとんど議論されていない。地元ジャーナリストは「中間層や富裕層はこの問題に関心がない。端的に言えば無視している」と指摘する。問題解消に向けた機運は盛り上がっていない。

【山本太一】

山本太一

サンパウロ支局特派員。2003年、毎日新聞社入社。千葉支局、東京社会部、福岡報道部を経て17年秋から現職。メキシコ以南の中南米地域を担当。

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