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水説

テレワーク幻想=福本容子

 <sui-setsu>

     高校生の娘とどこか疎遠になったお父さん。毎晩遅くクタクタで帰宅し、家族との時間がなくなっていたせいか。日々の出社をやめ、自宅近くでテレワークを始める。通勤時間が浮いて娘と話す余裕ができた。早く帰宅し、初日から夏野菜のカレーを作った。「おいしい」と喜ぶ娘。

     テレワーク推進のため政府が作ったインターネット動画のあらすじだ。働き方改革の一環として政府はテレワークを広く呼びかけている。

     2020年夏の東京五輪期間中、首都圏の企業が一斉に取り入れたら混雑緩和効果も期待できそう。というわけで、本質的に無関係だが、五輪開会式の7月24日がテレワーク・デーに決まった。

     テレワークの「テレ」はテレホンのテレで「遠い」の意味だ。自宅や社外の貸しオフィスなど、本社から遠い場所で仕事をする働き方である。インターネットなど情報通信技術の進歩で可能になった。

     子育てや介護など、個人の事情に合わせた働き方を、柔軟に認めるのはとても良い。ただし、国を挙げて一斉に、となると話は別である。

     テレワークの代表的な利点に挙げられるのが「生産性の向上」というものだ。ワーク・ライフ・バランスなどもあるが、会社通いでもバランスは保てる。混同はいけない。

     では、テレワークは本当に生産性を高めてくれるのか。

     一人一人の作業ははかどるかもしれないが、チームや会社全体の生産性は必ずしも上がらない--。そう唱えたのは、米マサチューセッツ工科大学客員研究員で企業経営者のベン・ウェイバーさんだ。

     どうやらメールやテレビ会議といった情報通信技術が、会社との距離を埋めてくれるというのは幻想らしい。

     ウェイバーさんの調べによると、同じオフィス内で働くエンジニア同士は、遠隔地の仲間との場合に比べ電子メールのやりとりが4倍に上り、プロジェクトも32%速く完成できたそうだ。

     物理的にも近くにいる間柄がメールも頻繁になる、という逆説的な結論である。

     ある製薬会社は、分散していた社内のコーヒーコーナーを数カ所に集め、食堂を広くして1カ所とした。違う部署で働く従業員を出会いやすくする工夫だ。すると年間売り上げが2割、200億円以上も増加したという。

     同じ場所で働くからこそ、互いの知恵や経験を作用させ合い、全体として成長できる、とウェイバーさん。そのせいで、夏野菜のカレーを娘と食べられなくなる、とは決して言っていない。(論説委員)

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