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炎のなかへ

石田衣良さんの連載小説「炎のなかへ」は、太平洋戦争末期の1945年3月10日、東京大空襲のさなか、家族を救おうと奮闘する少年の物語です。石田さんが初めて戦争に取り組むファンタジー小説。挿絵は「ドラゴンヘッド」などで知られる漫画家、望月ミネタロウさんです。

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炎のなかへ

/239 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

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その夜(74)

 直邦が走ってくると、タケシの手を引いていった。

「錦糸公園もみんな焼けちゃったね。だけど、時田の家のみんなは元気だ。やったね、タケシ兄ちゃん」

 公園の広場までやってきた。コンクリートタイルのあちこちに、煤(すす)だらけの避難民がへたりこんでいた。噴水の縁にもたれるように焼けだされた人たちが集まっている。誰の顔にも感情はなかった。煤で黒い顔のなか、血走った目だけが白く浮かんでいる。あまりにもひどいものをたくさん見過ぎて、感情は灰になって燃え尽きてしまったのだ。ここにいる誰もが戦争のほんとうの意味を身体(からだ)で理解していた。登美子がいった。

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