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炎のなかへ

石田衣良さんの連載小説「炎のなかへ」は、太平洋戦争末期の1945年3月10日、東京大空襲のさなか、家族を救おうと奮闘する少年の物語です。石田さんが初めて戦争に取り組むファンタジー小説。挿絵は「ドラゴンヘッド」などで知られる漫画家、望月ミネタロウさんです。

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炎のなかへ

/240 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

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その夜(75)

 タケシは噴水の縁にもたれうとうとした。真夜中に空襲警報で叩(たた)き起こされ、ずっと駆け続けだった。もう朝が近いはずだが一睡もしていない。直邦は千寿子の胸に抱かれ、すでに深い眠りに落ちている。タケシはふわふわと手足が軽く感じられるほど疲れ切っていた。ぬるい温泉のような噴水の水のせいもあるのだろう。だいぶ水苔(みずごけ)くさい濁った水だけれど、これで炎の竜巻から身を守れるのなら、泥だろうが腐った水だろうがかまわなかった。どんなに汚れても苦しくても、生きていることには代えられない。

 錦糸公園の周りをとり囲む建物の炎はしだいに収まりつつある。公園の木々の間を流れるのは火事が消えるときの白っぽい煙だった。

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