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就労移行支援事業所で内職作業をする男性。アルコール性認知症と診断されたが、断酒して記憶を取り戻した=大阪市内で、反橋希美撮影
(右)一般の59歳女性の脳画像と、(左)アルコール依存症と診断された50歳男性の脳画像。依存症の男性は脳の間に隙間(すきま)ができ、萎縮が進んでいることが分かる=国立病院機構久里浜医療センター提供

 65歳以上の日本人の4人に1人が認知症かその予備軍とされている。要因はさまざまだが、その一つにアルコールがあることはご存じだろうか。高齢化が進む中、お酒の問題を抱える人の中でお年寄りの割合も増えている。「アルコール性認知症」の症状や治療の可能性を取材した。

 ●増える高齢患者

 物忘れが目立つようになった高齢男性。家族が病院に連れて行くと、若い時からのお酒の飲み方を指摘され、依存症の専門病院を紹介された--。アルコール依存症を専門に扱う東布施辻本クリニック(東大阪市)ではこの15年ほどで、こんな患者が増えてきた。

 アルコール問題のある患者の高齢化は、臨床現場で指摘されている。背景には、定年後に生きがいを失って依存症になる人の増加や、医療の進展で肝機能障害などの身体疾患を一定程度は治せるようになったことが挙げられる。クリニックの辻本士郎院長は「以前は考えられなかったような70、80代の患者も少なくない。そのほとんどは初診時、認知機能も低下している印象だ」と話す。

 厚生労働省研究班の調査では、認知症の原因のうち「アルコール性」は0・4%。辻本院長によると、脳にダメージをもたらすメカニズムは、大量飲酒で食事が取れずにビタミン不足になることのほか、アルコールそのものの毒性による影響などが推測されている。脳萎縮が代表的な特徴で、記憶をつかさどる海馬や理性をコントロールする前頭葉などが影響を受け▽記憶障害▽行動に抑制が利かなくなる▽作り話をする--といった症状が表れる。

 ●断酒すれば改善も

 アルコール性認知症は、お酒を断てば改善する可能性がある。

 「いつから会社に行けなくなったのか、誰と何を話したのか。記憶がほとんどない」。大阪市内の男性(52)は、初めて専門病院を受診した30歳前後の2~3年をこう振り返る。

 男性は高校卒業後に就職した会社で、酒好きだった上司から毎晩飲みに誘われた。コップ1杯のビールで顔が真っ赤になっていたのに、少しずつ酒量が増え、一晩に3~4リットル飲むように。職場を解雇され、ほとんど歩けなくなるほど体が弱って専門病院を受診。依存症かつアルコール性認知症の代表的な「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」と診断を受けた。

 男性を救ったきっかけは「あなたは(依存症という)病気なんですよ」というソーシャルワーカーの一言だ。当時は1けたの計算も難しいほどだったが「この言葉だけは頭に入った」。病気なら治療しなければと毎日通院してお酒を断つと、数年して少しずつ記憶がよみがえった。自助グループでも初めは一言二言しか話せなかったが、生活歴を語れるほど回復した。

 今も脳機能は完全に元に戻らず、「三つ以上のことを言われると分からなくなる」という男性。だが就労移行支援事業所に通いつつ、アルツハイマー病の母(81)を「自分が恩返しする番」と支えている。

 長年アルコール依存症患者を受け入れてきた国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)が入院患者の1カ月後と3カ月後の認知機能を比較したところ、50代は55%、60代では45%、70代で25%が改善。木村充医師は「断酒後、萎縮した脳の体積が戻るという研究もある。1年、2年と断酒期間が続けばもっと改善する可能性はある」と語る。

 ●相談は専門医に

 周囲が高齢者のお酒の問題に気がつくには。木村医師は、物忘れのほか▽よく転倒するなど、けがや救急搬送が増える▽お酒の臭いがする▽服装がだらしなくなる--などのポイントを挙げる。

 節度ある飲酒とされる酒量は、男性でアルコール1日平均約20グラム(ビール500ミリリットル1本)で、アルコールの分解能力が低い高齢者や女性はより少量が望ましい。「多量飲酒」のレベルは1日平均60グラム以上だ。お酒の飲み方をチェックするには、世界保健機関(WHO)が作成している「AUDIT(オーディット)」というテストも参考になる=表参照。木村医師は「認知症では神経内科を受診する人も多いが、お酒の問題を疑ったらアルコール依存症を専門にみている精神科に相談してほしい」と話す。

 また、いざ本人を病院に連れて行こうとしても、拒否する場合も多い。辻本院長は医療機関や福祉サービスにつなげる声のかけ方として「本人の人格を大切にしつつ、その人の困ったことに焦点をあてて関係性を築くことが大切」という。

 家族や周囲にも「好きで飲んでいる」「我慢が足りない」などの誤解や偏見がある。「糖尿病などと同じ慢性疾患で、誰もがなりうる病気との理解が必要」と辻本院長。社会で経験を積んできた高齢者は一度治療に向き合えば断酒できる確率も高いといい、「もう年寄りだからと好きにお酒を飲ませて認知症を進行させるのではなく、あきらめずに医療や福祉につなげてほしい」と話している。【反橋希美】


AUDITの設問例

 ▽どのぐらいの頻度でアルコールを飲むか

飲まない=0点、月1回以下=1点、月2~4回=2点、週2~3回=3点、週4回以上=4点

 ▽飲酒する時は通常どれぐらい飲むか

日本酒換算1合以下=0点、2合程度=1点、3合程度=2点、4合程度=3点、5合以上=4点

 ▽一度に3合以上飲酒する頻度は

ない=0点、1カ月に1回未満=1点、1カ月に1回=2点、1週間に1回=3点、毎日かほぼ毎日=4点


 *質問は計10問。点数を合計し▽危険の少ない飲酒(0~7点)▽危険な飲酒(8~14点)▽アルコール依存症疑いの飲酒(15点以上)--をチェックする

 =「関西アルコール関連問題学会」の啓発冊子を基に作成

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