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現場上空

西村一幸の飛行記録(8) 70回目の広島原爆の日

毎日新聞社の取材ヘリ「きぼう」

 ヘリコプターは騒音が出る乗り物だ。自衛隊などが使用する軍用ヘリで100デシベル以上、周辺環境に考慮して設計された民間用ヘリでも60デシベル以上で、いずれも「人がうるさいと思う音」の基準を超えるレベルだ。航空取材でも騒音を出してしまうが、「なるべく音の影響を与えないこと」が要求される現場もある。

 2015年夏。それは戦後70年の節目の夏でもあった。西村は当時、大阪本社航空部に所属していた。8月6日の「広島原爆死没者慰霊式」とそれに続く「平和祈念式」(平和記念式典)を空から取材をする仕事が舞い込んだ。もちろん、地上からの取材も重要だが、祈りをささげる多くの人々と原爆ドーム、広島平和記念公園を1枚の写真に収めるためには、どうしても空からの取材が必要だ。

 一方、平和記念式典を主催する広島市からは、例年、取材要項として「式典中の午前7時40分から同9時15分までの航空取材は自粛してほしい」という要望がある。これは式典中の静粛性を保つためで、いわゆる「サイレントタイム」だ。

 この時間帯以外で参列者が集まっている時間、つまり式典直後の写真を撮影したいというのが写真部側の要望だった。

 まず西村は式典前日の8月5日午後3時15分、大阪(伊丹)空港をEC135型機で飛び立った。目的地は広島ヘリポート(広島市西区)だが、この飛行の目的は、どの位置から撮影すれば原爆ドームと人を同時にとらえることができるか確認することだった。実際に飛んで、写真部の要請に応え、かつ式典にも民家にも騒音の影響が少ないのは原爆ドームから北に約2.7キロ離れた大田川の中州の約300メートル上空と分かった。

原爆慰霊碑(中央)に祈りをささげるため列を作る大勢の人たち。手前は原爆ドーム=広島市中区で2015年8月6日、本社ヘリから幾島健太郎撮影

 翌8月6日の午前7時5分、西村と整備士、撮影担当の写真記者が搭乗したヘリは広島ヘリポートを離陸した。この飛行は風などの偵察と再度ポジションを確認することが目的だった。この日はやや雲はあるものの風は弱く、視程は10キロ以上と良好だった。撮影ポイントを確認し、約30分後にヘリポートに戻った。

 広島ヘリポートから取材ポイントまでの時間を考慮し、「サイレントタイム」終了直前の9時10分、再び西村は離陸した。夕刊の締め切り時間までそれほど余裕はなく、長時間取材はできない。9時20分ごろに現場に着くと、直ちに撮影を開始した。

 ヘリのホバリングは、地上から見ると同じ場所にとどまっているように見えるが、実際は風や震動で常に揺れた状態にある。「ほんの少し操縦桿(かん)を動かしただけで、ヘリのポジションは大きく変わってしまう」と西村は言う。カメラのレンズは600ミリレンズに2倍のテレコンバーターをつけて1200ミリ相当とした。カメラはデジタル一眼レフ。位置が少しでも動けば写真記者が撮影対象を見失い、もう一度、ピントなどを調整し直さなければならない。

 ただ、西村にはある経験があったので、それほど緊張はしなかった。それは東日本大震災による津波で爆発事故を起こした東京電力福島第1原発を30キロ以上先からとらえた経験だった。西村は風を読みながら慎重に操縦桿を動かし、ヘリの位置を保った。

原爆投下から70年目の朝を迎えた原爆ドーム=広島市中区で2015年8月6日、本社ヘリから幾島健太郎撮影

 「撮れました」。写真記者の声でヘリは現場から離脱、大阪へ向かった。写真は手前に原爆ドーム、原爆慰霊碑と祈りをささげる人々の波をとらえたものだった。写真は大阪本社発行の夕刊1面「被爆70年 核廃絶願う」の見出しと共に大きく掲載された。

 実は取材にフィルムを使っていた頃には、解像度と感度の関係や手ブレ防止機能がなかったことなどから、これほど離れた場所から被写体をブレずに撮影することは困難だった。これはテレビ局の取材も同じで、ハイビジョンなどの高解像度のカメラと超望遠レンズで、現在では高度600メートルからでも、事故現場などを撮影することが可能になっている。

 現場全体を文字通り俯瞰(ふかん)するために、空からの撮影は不可欠だ。同時に「どう騒音を軽減するか、常に飛び方を工夫しなくてはいけない」。西村は航空取材の難しさを語った。(敬称略)【黒川将光】(つづく)=随時掲載

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