メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ナビゲート2018

浄化される「昭和」=山内マリコ(作家)

 1964年の東京オリンピックの際、都内のいたる所を流れていた臭いドブ川が暗渠(あんきょ)となり、街並みが“浄化”されたことはよく知られている。貧しさを恥じ、よその国から隠そうという気持ちが働くのだろうか。

     再びオリンピックを前に、東京のあちこちが普請中だ。今回浄化しようとしているのは、貧しさではなく「昭和」のように思える。上野こども遊園地など、ギリギリ持ちこたえていた昭和の素朴な味わいのある施設が、反対も虚(むな)しくすでに消されてしまっている。

     小説家の干刈あがたさんが書かれた、『予習時間』という短編を読んだ。43年生まれの干刈さんが、中学生だった時代だろうか。井荻から荻窪あたりにかけての街並みや暮らしぶり、人間が、細やかに描かれている。

     描かれた街にはそこかしこに、戦争の残影がある。校庭は戦時中、高射砲陣地で、大砲が置かれていた。兵舎も残っていて何世帯か住んでいたが、少し前に取り壊された。街だけでなく人も、戦争を引きずっている。特攻隊に入れなかったコンプレックスから、軍隊式の態度で教卓に立つ先生がいる。一方、本当に特攻隊を知っている先生は、二度と軍隊の真似(まね)などしない。そのことを、中学生が話している。

     茅葺(かやぶ)き屋根の農家がところどころにある。荻窪の、タウンセブンの前身と思われるマーケットも出てきた。新宿にあったジャズ喫茶「風月堂」も。

     過去は異国であるとはよく言ったものだ。もうどこにも残っていない昭和の、濃い匂いに引き込まれた。そして今、再び街が変えられていくのを、なすすべもなく見ている。「平成」だって、いずれはそうなる運命にある。


     林英一、古川勝久、山内マリコ、粥川準二、小田島恒志の各氏が交代で執筆、毎週水曜日に掲載します。

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 日産会長逮捕 ゴーン神話「数字の見栄え良くしただけ」
    2. ゴーン会長逮捕 日産社長「私的流用、断じて容認できない」 会見詳報(1)
    3. 高校野球 練習試合で頭に死球、熊本西高の生徒が死亡
    4. 全国高校サッカー 県大会 西京、5年ぶり全国切符 高川学園の猛攻しのぐ /山口
    5. 日産 ゴーン会長を解任へ 「会社資金を私的に流用」

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです