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炎のなかへ

/242 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

 タケシはコンクリートの縁に頭をもたせかけ、寝ころぶようにぬるい水に浸(つ)かった。胸まであたたかな水がやってくる。国民服は濡(ぬ)れてごわごわだが、実にいい気分だ。

「ぼくは疲れたから、すこし休みます。未来の話は後でしましょう。みなさん、今夜はほんとうにお疲れ様でした」

 地獄のような夜だった。街が燃え、人が燃え、自動車と路面電車が燃え、学校と映画館が燃え、木々と空が燃え、東京の過去と未来が燃えるのを見てきた。そのなかで自分は何度も焼け死んでは、時間をほんのわずか巻き戻し、時田家の人々を守るために全力を尽くしてきた。炎のなかで命を落とすのは何度試しても恐ろしい経験だった。きっとあの痛みは、この身体(からだ)に焼きついて一生消えないだろう。

 だが、すべて終わったのだ。もうすぐ朝がくる。つらかったけれど、時田武おまえはほんとうによくがんばった。誰にも知られることはないのだから、自分で自分を認めてやろう。おまえはほんとうによくがんばった。命を投げ捨て、人の命を何度も救ったのだ。義雄伯父さんも、アメリカにいる父さんもきっとほめてくれるだろう。閉じた目の奥が熱くなり、涙が頬をこぼれ落ちていく。

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