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メディア時評

毎月毎日「8月報道」を=白井聡・京都精華大専任講師

 平成最後の「8月報道」には、何か焦燥感のようなものがにじみ出ていた。来年の夏には「あの戦争」は「前の前の時代の戦争」となる。毎日新聞の16日朝刊3面の終戦記念日に関する記事の見出しが「風前の戦争記憶」であるように、ますます強くなる忘却の圧力にあらがいつつも、それが間もなく力尽きるのではないかという不安の念が、今年の夏には漂っているようだった。

     「戦争の記憶を語り継ぐって言いますけどね、語り継げるんだったら戦争は起こらないんだ」と語ったのは野坂昭如だった。この言葉は「8月報道」がメディアの恒例行事と化していることへの批判としても読みうる。伝達し得ないほどの戦争体験が、ルーティン化された表現の中に落とし込まれ、時の流れという圧力にあらがうことができるのか、と問い掛けてくる。

     今、我々はあの戦争への向き合い方を根本的に問われている。そもそも「終戦記念日」の「終戦」はおかしい(正しくは「敗戦」である)し、その日付が8月15日とされることの必然性も疑わしい。ポツダム宣言受諾は14日であり、降伏文書への調印は9月2日である。それでも、8月15日を焦点化したのはメディアだった。他方で、「8月報道」が、いまだに新事実(知られていなかった悲惨な出来事)を掘り起こし続けていることにも驚かされる。その理由の一つは、あの戦争で記憶すべき事実を国家的プロジェクトとして収集する試みがこれまで何ら行われてこなかったという事実にあるだろう。

     なぜ、「8月報道」が長年続いてきたのか。記憶のための努力には違いないが、まさにこの努力が、政治的な結果を生んでいないことの帰結ではないのか。記憶の不可避的な風化が進行し、語り継ぐことの不可能性が前景化する一方で、この国が戦前から持ち越してきた国家と社会のゆがみは3・11以降、はっきりと表面化してきた。「8月報道」の継続はもう限界かもしれない。いま必要なのは、毎月毎日「8月報道」をすることにほかなるまい。(大阪本社発行紙面を基に論評)

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