オピニオン

MRIによる未知の体内現象の可視化に挑戦 工学と医学の連携により診断・手術を力強くサポート 情報理工学部情報科学科 教授・情報理工学部長
黒田 輝

2018年9月3日掲出

病気の検査に使う磁気共鳴画像化装置(MRI)。これまで見ることができなかった体内現象を見えるようにしたり、安全に使えるようにしたりする研究が進んでいる。MRIによる体内温度分布の非侵襲計測や体内の物質輸送の可視化などに取り組んでいる情報理工学部長の黒田輝教授に聞いた。【聞き手・銅崎順子】

 

 

 ――MRIで何が分かるのでしょうか。

 一般に、MRIは体の断面を画像化して診断・治療に役立てるものです。使い方を工夫しますと体内の温度や体液の動きなどを感知することができますので、病態の高度な診断や効率よい手術方法の確立に役立ちます。

 かつて、MRIは画像診断のみに使われていましたが、現在はMRIを見ながら手術をするといった使い方もされるようになってきました。これを「術中MRI」と呼んでいます。例えば、腫瘍の位置をMRIで特定しながら細胞を採取したり、手術で取り残しのないようにするためなどに使われています。さらには体内の温度分布を計るために使うことができます。例えば、腫瘍の温熱療法では、腫瘍にレーザーや超音波を照射して高温にすることで死滅させます。このレーザーや超音波を当てている付近の温度分布をMRIでモニターしながら治療するといった状況で使われています。

 

 

 ――どのような研究をしていますか。

 まずは、今述べたようなMRIを使った体温の計測です。MRIは水素原子核を信号源としてその状態や動きに応じて画像を取得します。そのため、水や脂肪を含んだ組織の計測を得意としています。私たちはこれまでに、水分子の水素原子核の共鳴周波数が水素結合によって温度依存することを利用した温度分布画像化技術を開発してきました。この技術は脳腫瘍のレーザー治療や子宮筋腫の超音波治療において広く実用化されています。これらの治療法は体に傷を付けない、あるいは傷口の小さい治療であるため、患者さんへの負担が少ない治療として注目されています。現在は、このような温度分布画像化技術を水分の豊富な軟骨や、呼吸による動きの大きな肝臓、あるいは脂肪の多い乳房といった部位の治療にも使えるように研究中です。

 軟骨の温度モニターは変形性関節症の痛みを和らげる温熱療法のために必要です。軟骨は水分が豊富ですが、厚みが薄く、かつ運動による温度上昇を利用した治療にも使いたいので、これまでとは異なる指標を活用できないかと研究中です。

 体内では、呼吸や心臓の動きにつれて、肝臓などの臓器が変形しながら動いています。肝臓がんに対しても温熱治療が有効なことが分かっているのですが、肝臓が動いているためMRIで腫瘍の位置を追いかけながら温度を測るのは簡単ではありません。そこで腫瘍の位置を正確に追うために血管を目印に使い、温度分布を画像化するために動きに影響を受けないようにする方法を開発し、その原理を証明してきました。今後実用化できるようにしていきたいと思っています。

 乳がんもまた温熱療法の対象です。脂肪組織を多く含む乳房では、水の温度を測るだけでは不十分で、脂肪の温度も知る必要があります。いろいろと実験をして、飽和脂肪酸にも不飽和脂肪酸にも含まれる、脂肪酸の成分に注目して計測するのがよいということが分かってきました。こちらもマヨネーズなどを使った実験で原理の証明はできており、特許も出願しています。現在精度を上げて、実用化する方法を検討しています。

 

 

 ――医療と密接に関わることもあり、本学医学部と共同で研究をしていらっしゃるそうですね。

 東海大は大規模な理工系学部と医学部を有し、両者が地理的にも近いことから医工連携につながる条件が整っています。医療現場において手術など通じて経験的に知られてきたことを、MRIによって可視化することで理解を深め、これまでより的確に診断・治療を行うことができるようになります。例えば、脳神経外科との共同研究では、脳脊髄(のうせきずい)液の動きから水頭症の分類をしたり、働きを解明したりすることを目指して研究しています。

 MRIは、体内の物質移動を見ることができます。脳脊髄液は、「絹こし豆腐のように」柔らかい脳を衝撃や圧力変化から守ることに加えて、アルツハイマー病患者の脳に多く沈着することが知られているβ(ベータ)アミロイドのような脳の老廃物の運搬も担っています。これまでに、健常な若年者・老年者、水頭症患者の脳脊髄液の動きを測定するとそのパターンが異なることが分かってきました。このような知見を積み重ねて水頭症の種類によって特徴的な動きがあるのかどうかを見て、手術の可否判断などに役立てようとしています。医学部と共同で患者さんのデータを集め、検証を続けている段階です。

 脳は、解明されていないことがどのぐらいあるかも分からないほど複雑で謎に包まれた器官です。例えば、脳にはかつてリンパ系がないと言われていましたが、同じような働きをする脳脊髄液を介する系が2015年に発見されました。これは睡眠時に活性化し、脳の老廃物を洗い流すと言われています。このような脳脊髄液の働きも可視化できるようにしたいと考えています。

 

 ――MRIの安全性についてはどうなっていますか。

 MRIはいろいろな磁場によって画像を作り出すので、体内に金属があるとそれが引き付けられたり、発熱したりします。そこで例えば、人工股関節を入れている人がMRIに入った場合、金属部分がどのくらい発熱するのかといったことをシミュレーションしています。2012年ごろから心臓ペースメーカーのような、これまではMRIを撮ってはいけないと言われてきたものについても条件付きでMRIに対応するものが出てきました。体に入れる医療機器には、入れ歯から冠動脈に入れるステント、人工内耳や人工眼などいろいろありますし、これからもそういった機器が増えてゆくでしょう。それらがMRI検査に対して安全かどうかを調べ、その情報を医療機関や患者さんに提供しなければいけません。現在、日本磁気共鳴医学会などの学会と厚生労働省、医薬品医療機器総合機構と共に、医療機器のMRI安全性に関する情報提供を充実させようと活動しているところです。

 

 ――今後の研究課題はどのようなものがありますか。

 体内における温熱と物質の輸送について統合的に解明したいと考えています。体の中での熱の伝わり方には、血液が大きく関与しています。気温が変化しても脳や体幹部の温度は36~37度に保たれますが、手足の先といった末端は温度が大きく変動します。これは温かい血液の流れる範囲が調整されるからです。血液は熱だけでなく、さまざまな物質も運びます。脳脊髄液も物質の運搬に関与しています。これまでの研究に基づいて、MRIによって、このような熱と物質の輸送を計測し、誰もみたことのない未知の体内現象を可視化してゆきたいと思っています。

 

 

 ――若い人たちへメッセージをください。

 研究というのは何か難しいものだと思われることがあるようですが、そうでもありません。自分が疑問に思っていたことが、実は誰も知らないことだったり、研究されてなかったことだったりします。ですから、まずは自身の素朴な疑問や直感を大切することをお伝えしたいと思います。例えば、ノーベル物理学賞を受賞された英エディンバラ大のピーター・ヒッグス名誉教授の疑問は「物質にはなぜ重さがあるだろう?」だったそうです。私の研究の発端となった疑問は「体内の温度分布を知るすべはないのか?」というものでした。体表面の温度分布なら赤外線で測ることができますが、体内の温度はどうすれば可視化できるのか、何とかして知りたいといろいろな方法にチャレンジした結果、今のMRIの研究にたどり着きました。他の人が不思議とも感じないものを不思議だと感じる純粋で敏感な心を持ってほしいですね。これは研究だけでなく、勉強や仕事全般においても必要なことだと常々思っています。

 

情報理工学部情報科学科 教授・情報理工学部長 黒田 輝 (くろだ かがやき)

東京都生まれ。1984年神戸大学工学部計測工学科卒業、86年同・大学院工学研究科計測工学専攻修士課程修了。同年日本電気株式会社衛星通信システム本部、88年大阪市立大学工学部電気工学科助手、95年ハーバード大学医学部放射線科客員研究員。99年より東海大学総合科学技術研究所専任講師、電子情報学部情報科学科助教授等を経て、2009年より情報理工学部情報科学科・教授。18年より同学部長。この間(財)先端医療振興財団先端医療センター上席研究員、(公)神戸国際医療交流財団首席研究員等を兼務。博士(工学)。専門領域は磁気共鳴画像化法(MRI)による温度計測、脳脊髄液動態計測、インターベンショナルMRI、ならびに体内植込み医療機器のMRI安全性評価等。ISMRM(国際磁気共鳴医学会)年次大会プログラム委員、日本磁気共鳴医学会理事、日本ハイパーサーミア学会理事等を歴任。日本磁気共鳴医学会学会賞特別賞、日本ハイパーサーミア学会優秀論文賞、ISMRM Magna Cum Laudeなど受賞。ISMRM Fellow。(独)医薬品医療機器総合機構専門委員、千葉大学フロンティア医工学センター特別研究教授、バイオビュー株式会社技術顧問などとしても活動。