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中村裕一氏

医療・福祉の経営基盤の安定化に貢献

 国の財政状況が厳しい中で少子高齢化が進んでいる。持続可能な社会保障制度の仕組みを構築していくことは喫緊の課題だ。医療、福祉分野の基盤強化に、政策金融の面から主に取り組んできたのが福祉医療機構(WAM)だ。中村裕一理事長に、抱える課題と展望を聞いた。(児玉平生)

     --日本の社会保障制度の整備とともに歩んできた機関ですね。

     医療と福祉の基盤整備に必要な資金を提供するため1954年設立の社会福祉事業振興会と60年設立の医療金融公庫がルーツです。社会福祉事業について、戦後、設立前の施設は公費助成と善意の寄付、篤志家の自己負担による運営が主体でしたが、それでは社会の要請に応える規模が確保できる資金量とならないということから、振興会発足後、すぐに融資事業を始めています。医療金融公庫も同じです。85年に統合して社会福祉・医療事業団となり、特殊法人改革を経て2003年に独立行政法人化して現在に至っています。

     --時代を経るに従い役割も変わってきていますね。

     例えば医療の場合、かつては病床数が不足しているところへ、民間の医療機関にどうやって担ってもらうのかが課題でした。病床数だけみると、今ではほとんどの地域で充足していますが、古くなった施設の更新についての支援が必要ですし、最も大きな課題は、効率的な医療提供体制の整備です。スタートした「地域医療構想」では、いろんな施設が連携し、役割分担も行って効率化を進めることが求められています。また、介護の方では、医療から介護まで一括して受けられる「地域包括ケア」が推進されています。主に介護を必要とする人は介護施設でのケアへ。そして、施設ケアから在宅ケアへとシフトできるようにと、施策の重点が移っています。

     --25年問題をどう乗り切るのかも問われています。

     団塊の世代の人たちが75歳以上の後期高齢者になる25年に向けて、自治体は、高齢者の方が安心して過ごせるように施設整備を行おうとしています。しかし、いま、ボトルネックになっているのが担い手の確保です。介護関連の施設を整備しても人手不足から、フルで稼働できないという状況が生じています。そのため、自治体が施設の整備を求めても、民間の事業者が手を挙げにくくなっているということが起こっているようです。さらに、なるべく要介護にならないように、予防のための施策も国は推し進めています。

     --その中で、WAMが融資事業で重視しているところは。

     国は「地域医療構想」を推進しています。これに沿った融資については、金利や返済期間などで優遇措置をとっています。介護では「地域包括ケア」に基づいて、介護医療院という新たなジャンルの施設の整備が始まっています。これは療養型病床の受け皿にもなるわけですが、介護医療院へ転換する場合の融資にも優遇措置が受けられます。診療所については、在宅支援や24時間対応、かかりつけ医といった機能を持った診療所を新設する場合にも優遇のメニューが使えるようになっています。福祉の方では、老人、保育、障害と、分野ごとに条件が分かれていた施設への融資について、複合した施設をつくる場合は、最も条件のいい融資メニューを適用することになっています。こうした形で、国の施策を後押ししています。

     --長期・固定・低金利融資のメリットをお聞かせください。

     医療、福祉のサービスは、公定価格で提供され、赤字になったからといっても価格転嫁はできません。そのため経営は厳しく、コスト低減の仕組みが欠かせません。国の信用力を生かし市場から調達した低利の資金を活用し、医療や福祉の事業者の資金調達コストを抑えることにより、経営を支援しています。また、このことは、税や社会保険料等、国民負担の抑制にもつながっています。金利については、先行き上がってきそうだという懸念もあり、長期固定というWAMによる融資の役割は、さらに増してくるのではないでしょうか。

     --経営サポート事業についても説明を。

     融資先の財務諸表をもとにデータを施設別に分析し、経営リポートをまとめて公表するとともに、セミナーなどでも活用しています。融資先へもデータを提供し、経営分析、経営指導を行っています。私たちの融資先以外も含めて、日本全体の医療、福祉の経営基盤の安定化に役立っていると思います。

     --民間の金融機関との連携の狙いは。

     政策融資は、融資目的が限定されています。しかし、医療、福祉関係の施設は突然、運転資金が必要になる場合もあります。機構で対応できないケースもあり得るので、民間金融機関との協調融資をお勧めしています。また、民間金融機関は、地域の金融事情に詳しく、医療、福祉関係の施設に悪意のある第三者が近づくことを防ぐ役割も果たしていただいています。

     --NPO(非営利団体)などへの助成制度もありますね。

     行政のセーフティーネットでは救いきれず、困っている人たちにとって、地域のNPOの方々は頼りになる存在です。そうしたNPOの事業の立ち上げと運営について、3年程度での自活を目標に助成する制度を設けています。毎年1月に助成の対象の募集を始め、4月から事業が開始できるようにしています。高齢者や障害者以外にも、例えば引きこもりなど社会に対応できていない若者も含め、どの世代にも広くアプローチする取り組みが多くなっています。

     --退職手当共済事業について教えてください。

     社会福祉法人の約9割で導入され、加入職員は84万人になっています。現在は保育関係の職員の加入が増えています。医療、福祉に携わる公務員と、社会福祉法人の職員との処遇の差が問題となり、61年に制度が発足しました。今日では、福祉の分野にも一般企業が数多く参入しており、制度改正が進められてきました。ただ、職員の負担はないというのは従来通りで、福祉関係の職員の人材確保のため退職金制度もきちんと設けられるというのがこの事業のポイントになるのではないでしょうか。

     --年金担保融資の新規受け付けが終了することになりました。

     22年3月末の予定で新規申し込みの受け付けが終わります。その後は、家計に関する支援が必要な方はお住まいの地域の自立相談支援機関が相談を受け付け、また一定の審査要件を満たす方は社会福祉協議会が実施している生活福祉資金貸付制度も利用できます。受付窓口の民間金融機関に、周知広報をお願いしているところです。

     --7月の集中豪雨被災に対する特別措置がとられるそうですね。

     被災した医療、福祉施設向けに、3年間の無利子融資制度を設けたり、二重債務問題に対処するため償還期間の延長などの特別措置をとることになりました。

     --医療、福祉施設の経営基盤強化の要は何でしょうか。

     医療、福祉施設ももちろん人の集団で運営されています。まずはコミュニケーションがしっかりとれ、情報が伝達されてきちんと意思決定が行われる。それが確実に実行され、実施後は適切にモニタリングが行われる。ここは一般の企業と全く同じです。調子が悪くなるところは、コミュニケーションに問題があるケースが多いようです。能動的に動ける人の集団であることが、ポイントだと思います。

     なかむら・ひろかず 1954年生まれ。東京都出身。77年東大教養(国際関係論)卒、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。83年シカゴ大学MBA、2005年執行役員プライベートバンキング営業部長、07年三菱UFJ信託銀行理事、14年菱進ホールディングス社長。15年10月から現職。

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