メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

知られざる中・東欧

「地下水の年齢」を測る日本人研究者

国際原子力機関(IAEA)で地下水の年代測定を担う松本拓也分析官。国連ウィーン事務所の研究室には、自ら設計した質量分析計が設置されていた=三木幸治撮影

 「核の番人」と呼ばれ、核施設の査察や検証で知られる国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)。その業務は、原子力発電所の国際基準策定や加盟国への技術協力、原子力の平和利用など幅広い。

 中には、世界の水資源を有効活用するため、水に含まれる同位体を使って地下水の全貌を調査している部門もある。ここに異色の日本人研究者がいる。岡山大准教授からIAEAに転身した松本拓也分析官(49)だ。

アフリカの地下水は数万年前に降った雨

 松本さんが取り組んでいるのは、放射性同位体を使った地下水の年代測定だ。地表に降った雨水は、地下に染み込んで地下水となるが、地表降下後に経過した時間によって同位体の量や構成が異なる。例えば水素の同位体であるトリチウムは12年で半減し、ヘリウムの同位体を作る。そのため、地下水に含まれるヘリウムの数を調べれば、その水が何年前の雨水なのか知ることができる。

 日本は降水量が多く、地形が急勾配であるために、比較的若い年代の地下水が多い。富士山麓(さんろく)の地下水などは数十年前の雨水であることがわかっている。これはこの地域の地下水が数十年という短期間で入れ替わり、持続的に水資源として活用できることを示している。一方、アフリカなど水資源が不足している地域では、数万年という年齢の地下水に依存している場合が多い。古い地下水は石油同様、一回限りの資源であるため、持続的な活用については厳密な管理が必要だ。

 地下水の年代がわかれば、災害などで雨水に汚染物質が含まれた際、使用している地下水に汚染物質が入るまでの期間を計算することができる。

 このように、水資源の有効活用には地下水の年代が非常に重要だが、地下水にごく微量しか含まれない同位体を分析するのは、途上国にとっては困難だ。

 そこで、途上国の調査に協力を始めたのがIAEAだ。IAEAは元々、大気中での核実験による水資源への影響を調べており、地下水の年代を調べるノウハウを持っていたのだ。

各国からIAEAに調査依頼が殺到

 松本さんが所属する研究室は、国連ウィーン事務所の地下1階にある。ここには、微量の同位体を分析できる質量分析計が設置されている。各国で地下水を取水し、水に含まれたガスを抽出して分析計に入れると、ヘリウム同位体を分離して定量することができる。

 2010年からIAEAで働き始めた松本さんは、まず比較的若い年代をもつ地下水の年代調査を欧州や中東など10以上の加盟国と実施。現地で地下水サンプルを採取する手法などを確立するとともに、年間300を超える試料の分析を可能にするための質量分析計を完成させた。14年には増え続ける加盟国からの要望に応えるため、少量の試料でもヘリウム同位体を定量できる新たな分析装置も開発した。

 アフリカなどにある数十万年前の地下水の年代を測定するためには、ヘリウムとともに22万年という半減期を持つクリプトンの同位体を調べることが必要だ。そのため、松本さんは今、クリプトンの同位体を分析できる中国、米国の研究者と連携。今後は、国際的な調査体制の確立を目指している。

 IAEAは昨年まで、干ばつに苦しむアフリカのサハラ砂漠南部で、五つの地下水系を調査した。各国はこの調査を基に今後、どのように水資源を確保し、地下水を持続的に利用していくか計画を立てる。16年からは、地下水を有効活用できていない南米・アルゼンチンでもIAEAが関わる大規模な調査が始まっている。

 また中国では人口増の影響で、大量の地下水を取水しており、地下水保全戦略の一環として地下水の年代測定に力を入れる。松本さんは最近、中国の研究者と共同で大規模な調査を実施し、100万年を超える年代の地下水の存在を明らかにして注目された。

国際原子力機関(IAEA)が入る国連ウィーン事務所=2018年8月31日、三木幸治撮影

「平和と開発のための原子力」への転換

 水が豊富な日本では地下水の年代測定はあまり実施されていないが、例えば放射性廃棄物を地下処分する場合は、地下水の状況を詳細に把握する必要がある。そのため、日本の研究者グループもIAEAとともに地下水の年代調査の研究を進めている。

 松本さんは分析装置の設計・作製から、同位体のデータ分析、科学的解釈までを行える世界でも数少ない研究者の一人。「大学では真理を追究する仕事をしてきたが、IAEAの仕事は世界に貢献しているという実感がある。自分の役割は今ここにある、と思っています」と話す。

 IAEAのスローガンは元々、「Atoms for Peace(平和のための原子力)」だったが、IAEAの天野之弥事務局長は「Atoms for Peace and Development(平和と開発のための原子力)」を掲げ、原子力関連技術を途上国支援に使うことを重視している。松本さんは、そんなIAEAを支える一人として、今後も活躍が期待されている。【三木幸治】

三木幸治

ウィーン支局特派員。1979年千葉県生まれ。2002年毎日新聞社入社。水戸支局、東京社会部、中部報道センター、外信部を経て16年春から現職。中・東欧諸国とウィーンの国連、核問題などを担当。Twitter:@KojiMIKI5

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 選抜高校野球 21世紀枠、推薦46校出そろう
  2. 上戸彩 娘とTikTokにハマり中 動画撮影にも挑戦
  3. フィギュアGP 羽生SP首位、世界最高得点で ロシア杯
  4. ORICON NEWS [ななにー]剛力彩芽、念願の「TikTok」初挑戦 稲垣・草なぎ・香取と全力変顔
  5. KDDI 3Gサービス 22年3月末終了 携帯大手で初

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです