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時代の風

防災から見た9・11テロ 「技術の限界」自覚が必要=京都大教授・中西寛

=太田康男撮影

 9月1日は関東大震災から95年の防災の日だった。今年も西日本大水害や大阪北部地震など複数の災害が起きている。改めて現代文明における防災について考えたい。

     アメリカでは程なく9・11同時多発テロから17年の日が訪れる。9・11は恐るべきテロであると同時に、技術の粋を集めた超高層ビルだった世界貿易センター(WTC)が倒壊するという大規模災害でもあった。

     なぜ巨大ビルが全面倒壊に至ったのか、米議会から委嘱を受けて商務省の技術部門であるアメリカ国立標準技術研究所(NIST)が調査を行い、詳細な報告書を2005年に公表している。専門的だが調査内容が分かりやすく書かれており、アメリカの底力を感じさせる重厚な内容である。

     報告書は、ビルが1970年代の建設当時の建築基準を満たしていたことを確認した上で、航空機突入に伴う衝撃と火災で構造柱が劣化し、構造がゆがんだことで荷重バランスが崩れるという、連鎖的な過程で建物が倒壊に至ったことを明らかにした。

     通常の火災の場合は防火設備で火災を封じ込めつつ、余裕をもたせた構造で安定性を保つ設計になっていたが、燃料を満載した大型ジェットの突入に伴う破壊と、複数階での同時的火災の発生は想定されていなかったのである。

     興味深いのは報告書が示した勧告である。構造や防火設備の改善強化を勧告すると共に、避難体制の強化を重要視している。いかなる大規模衝撃にも備えられるよう建築基準を設定することは現実的でないとして、最悪の場合でもビル内の人員が安全に避難できるまで倒壊しない程度の強度を建物が保ち、迅速な避難を実現するための制度づくりを勧告しているのである。

     この考え方は現代文明における防災の発想として重要な要素を示していると思う。日本でも東日本大震災をはじめ、近年では毎年のように大規模な自然災害被害が発生している。20世紀には科学技術文明への過信があって、いかなる災害にも対応できるような基準を設定すれば、最新技術によって被害を抑え込めると考える風潮があった。WTCビルもその所産であった。

     しかしその倒壊が示したのは、あらゆる災害を想定することは不可能であり、従ってどのような災害にも対抗できる設備は存在しないということである。最も重視されるべきは人命の保護であり、そのための最終手段は避難である。防災計画は、常に想定外の事態においてどう対応するかを組み込んでおかねばならないし、その際には住民避難が最優先事項となる。

     西日本水害でも想定を超える降雨量に堤防決壊やダムの臨時放流が行われ、犠牲者が発生した。当然ながら、被害発生に至る過程の客観的かつ科学的な調査と、それに基づく防災体制の改善が必要である。しかしいかなる設備も一定の想定基準なしには建設できないし、その想定を超える災害が起こらないことは誰も保障できない。従って今後の防災は、設備の強化と同時に想定外の状況に至った場合の避難体制を含めなければならないだろう。

     日本にとってWTC倒壊に比肩するのは東京電力福島第1原発事故である。事故後には複数の調査報告が出たが、現場調査は限られ、残念ながらその内容はNIST報告書の分析にははるかに及ばない。現地の状況改善に伴い、改めて事故調査が行われるべきだろう。

     同時に原発の安全性についてもNIST報告書の考え方を採り入れるべきである。事故後に発足した原子力規制委員会によって安全基準は強化されてきた。しかし同時に、想定外の事故に備えた実効的な避難計画が必要である。先月末には福井県の大飯・高浜両原発が同時事故となった場合の避難訓練が行われたことが報じられた。

     こうした訓練が行われるのは一定の進歩なのは間違いないが、訓練の現状はまだ手順の確認程度にとどまっている。複数の原発事故が起きるほどの大規模災害時の混乱を想定していないし、屋内避難者に対する物資配給体制なども考慮されていないようである。

     自然の脅威に対して科学技術は無力ではない。WTC調査は、科学技術の限界を自覚することがより効果的な防災への道であることを教えているのである。=毎週日曜日に掲載

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