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グループホーム

親なき後の日常支え 重度障害者の「家」に たん吸引など学び 横浜

グループホームでヘルパーの介助を受けて夕食をとる青山明子さん(右)。話すことはできないが、平仮名の筆談で意思疎通する=横浜市栄区で2018年8月2日、藤井達也撮影

 親が死んだ後、我が子は十分な介護を受けられるのか。重い障害のある子を持つ家族にとって「親なき後」は切実な問題だ。家に代わる居場所として期待されるグループホーム(GH)では、たん吸引などの医療的ケアへの対応の遅れから受け入れが進んでいないとされる。そんな中、「親なき重度障害者」が多く暮らす横浜市のGHの先駆的取り組みが注目されている。【江刺正嘉】

     横浜市の社会福祉法人「訪問の家」が運営するGH「きゃんばす」は、閑静な住宅街にある木造2階建ての家だ。「こーひーのむ?」。1階の食堂で介助を受けながら夕食を取っていた青山明子さん(53)はヘルパーが掲げたホワイトボードをのぞき込むと、うなずいた。

     きゃんばすで暮らす男女4人のうち、明子さんら3人は障害の程度に応じた支援の必要度を示す「障害支援区分」が最も高い「6」。明子さんは小学2年の時に居眠り運転のトラックにはねられて脳に重い障害を負った。手足が不自由になり、声を発することもできず、耳も聞こえない。

     だが、小学校で習った平仮名は理解できる。きゃんばすの職員らは筆談や明子さんの口元の動きで言いたいことを読み取る努力を続けている。

     訪問の家は1986年、全国でも例がなかった重症心身障害児者の通所施設「朋(とも)」を開設し、事業を始めた。養護学校高等部を卒業するまで在宅介護をしてきた明子さんの母クニさん(90)は「普通の生活をさせたい」と願い、朋の開設と同時に通わせた。明子さんはパンの製造販売の作業に熱中し、生きがいになった。

     転機は98年。明子さんは33歳、クニさんは70歳だった。クニさんの夫は既に他界し、1人での介護は限界を迎えていた。「障害者施設に入れば(通所施設である)朋には通えなくなる。GHなら少人数で家庭的な雰囲気があり、パン作りも続けられる」。訪問の家が設置した2カ所目のGHに明子さんを入居させることにした。

     「親の病気や高齢化で介護が困難になっても、我が子に慣れ親しんだ活動の場に通い続けてほしい」。こうした家族の願いを受け、訪問の家が手掛けるGHは13カ所に増え、入居者も計50人に。その大半が最重度の障害がある上、親を亡くしていたり老齢で介護ができなかったりする「親なき後」の状況にあるという。

     訪問の家のGHでは、症状が重い障害者も安心して生活できるよう、医療面などできめ細かい支援をする。通所施設での活動を終えた障害者が夕方帰宅すると、ヘルパーらが就寝時間まで原則一対一で食事介助などをする。13のGHはすべて夜間祝日の泊まり勤務をしており、健康上の不安が生じても朋に併設された診療所の看護師や医師に相談できる。

     明子さんは2001年、重いてんかん発作を起こして市内の病院に入院、気管切開手術を受けた。医療的ケアが必要となり、退院の際「施設入所しかない」と言われた。しかし、明子さんのパン作りへの思いに応えようと、職員やヘルパーはたん吸引などを学んで受け入れ態勢を整えた。

     明子さんの部屋には音を拾う装置があり、夜中に異変があっても控室にいる当直ヘルパーらがモニターで把握できる。昼間はパン作りや買い物。休日に大好きなディズニーランドに出掛けるなど、GHの手厚い支援は明子さんの世界を広げている。

     訪問の家理事長の名里晴美さん(56)によると、社会の高齢化などを背景にGH入居の希望者は増えているが、人手不足でヘルパーの確保が難しく、GH増設は容易ではない。他の社会福祉法人が医療的ケアへの対応に尻込みするのも「分からないではない」と言う。

     それでも名里さんは確信している。「重い障害を持つ当事者・家族の多くが施設ではなく、地域での生活を望んでいる。家族を救うためにもGHを増やす努力が必要だ」


    国交省、人件費補助

     交通事故の被害者救済策を担う国土交通省は「親なき後」対策に必要なデータを集めるため、2014~17年度、北海道を除く全国のグループホーム(GH)と障害者支援施設を対象にアンケートを実施した。

     それによると、寝たきりで意思疎通も困難な遷延(せんえん)性意識障害者は、回答があったGHの約0・4%、施設の約23・3%しか入居(所)実績がなかった。たんの吸引への対応を可能としたのはGHで約1・9%、施設で約30・1%にとどまり、医療的ケアへの対応の遅れが重度障害者の受け入れを阻んでいる現状が判明した。

     結果を受け、同省は今年度から、交通事故による重度障害者を受け入れるGHと施設を対象に、自動車損害賠償責任(自賠責)保険の資金を活用し、職員の人件費を補助する事業を始めた。公募の結果、今年度の補助対象にGH1カ所、施設22カ所が決まった。

     GHで唯一選ばれたのが訪問の家の「きゃんばす」。名里晴美理事長は「福祉行政を担う厚生労働省だけでなく、国交省にも重い障害のある人が地域で暮らす手立てを考えてもらうのは非常に有意義」と歓迎している。【江刺正嘉】

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