世界の頂への階段を一気に駆け上り、日本スポーツ界に新たな歴史を刻んだ。
テニスの全米オープンで大坂なおみ選手が初優勝した。4大大会のシングルスを日本選手が制するのは初めての快挙である。
決勝では観客の多くが、昨年9月の出産から復帰したセリーナ・ウィリアムズ選手(米国)の優勝を期待した。大坂選手には完全敵地の状況だったが、幼い頃からの憧れだった選手を圧倒した。
審判への度重なる抗議でウィリアムズ選手が不利に立たされると、観客は審判に大ブーイングを発し、ウィリアムズ選手を後押しした。異様な雰囲気にも自身を見失わず、集中力を切らさなかったのは立派だ。
表彰式でのスピーチも感銘を与えるものだった。大坂選手は、ウィリアムズ選手に大声援を送った観客を気遣ったうえで、試合を見続けてくれたことへの感謝を語った。
そして「プレーをしてくれてありがとう」と敗者を敬った。素直で飾らない人柄が表れていた。
大阪市出身で、ハイチ系米国人の父と日本人の母との間に生まれた。180センチの長身からの高速サーブや強烈なショットといった力強さは、これまでの日本女子にないものだ。
課題だった精神面の波は、今季師事するドイツ人コーチとともに克服した。覚えたのは「我慢」である。これまで頼ってきた力を制御して、好機をうかがう忍耐力を養った。短期間でコーチとの信頼関係を築けたことも優勝の大きな要因だろう。
大坂選手の活躍は、日本人観をあらためて考える機会となった。
3歳で米国に移り、日米双方の国籍を持つ。日本語はある程度聞き取れるが、話すのはまだ苦手だ。しかし「心は日本人に近い」と日本選手としてのプレーを選んだ。
大会中も海外メディアからアイデンティティーについて問われると、「私は日本の文化の中で育った」と愛着を口にした。人種や言葉の共通性だけではくくれない、新しい日本人像を大坂選手は示している。
2年後の東京五輪に日本代表として出場する意欲を語っている。何より20歳という若さである。もっと強くなる可能性があり、さらなる成長が楽しみだ。
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