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余録

日本家屋の暗がりの美をたたえた随筆「陰翳礼讃」を書いた谷崎潤一郎は…

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 日本家屋の暗がりの美をたたえた随筆「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」を書いた谷崎潤一郎(たにざき・じゅんいちろう)は、自宅を設計する建築家に言われた。「先生のお好みはよく分かっています。必ずご期待に沿いますので、安心なさってください」▲「陰翳礼讃」を読んだという建築家の言葉に谷崎は安心どころか、ひどく不安になる。実生活の文豪は明るくモダンな家が好きだったからだ。真顔で「困ったことになった」と心配したが、結局は陽光を取り入れた明るい家が建った▲その「陰翳礼讃」にはアインシュタインが来日した折、白昼ついていた街灯を「不経済」と指さす話がある。暗がりの美を忘れ、「照明の過剰」「電灯の浪費」に陥った日本人に苦言を呈すくだりだが、本音が別かどうか分からない▲はからずも照明が部分消灯されて、建物のそこかしこに暗がりができた北海道の街々である。震災による節電は見慣れた都市空間のたたずまいも変えた。綱渡りの電力需給で、夜間への生産シフトや工程の組み替えをした企業もある▲その停止が広域停電の原因となった苫東厚真(とまとうあつま)火力発電所は月末から順次再稼働されるものの、全面復旧は11月以降になるという。2割の節電は今週がヤマというが、その後も計画停電を避けるには節電の必要な状態が続きそうである▲照明を減らした街の非日常に心ひかれる方もおられよう。だが暗がりの美を称揚する文豪も暮らしの場にはおのずと別の基準を用いた。「生活の用」に応える使命の重さを見誤ってはならぬ電力会社である。

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