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インタビュー

かけがえのない瞬間を映画にしたかった「きみの鳥はうたえる」三宅唱監督

左から、染谷将太さん、石橋静河さん、柄本佑さん (c)HAKODATE CINEMA IRIS

 僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした。9月になっても10月になっても、次の季節はやってこないように思える--。「僕」に扮した柄本佑さんの低く落ち着いたトーンのモノローグで、映画「きみの鳥はうたえる」(2018年)の物語は始まる。スクリーンからは、男2人、女1人の揺れ動く感情だけでなく、首筋をつたうじっとりとした汗までも、生々しく伝わってくる。「自分自身、あるいは自分と親しい人間の物語として映画を感じてもらえたら」と、脚本も手掛けた新鋭、三宅唱監督(34)は語る。【西田佐保子】

日常の喜びやうれしさも真摯(しんし)に見つめた原作

 「きみの鳥はうたえる」は、北海道函館市の映画館「シネマアイリス」が2016年、開館20周年を迎えたのを記念して製作された。原作は、41歳で自死した同市出身の作家、佐藤泰志さん(1949~90年)の同名小説で、雑誌「文藝」に81年9月号から連載され、82年に書籍化された。タイトルはビートルズの曲「And Your Bird Can Sing」から採られている。

 佐藤さんの小説はこれまでに「海炭市叙景」(10年)、「そこのみにて光輝く」(14年)、「オーバー・フェンス」(16年)と、3本映画化されている。三宅監督は「生きることのつらさや人生の暗さを誠実に見つめ、そこにそっと寄り添う作家だという先入観がありました。『きみの鳥--』を読んで、そのイメージは当然ありつつ、生きていく上での日常の喜びやうれしさも真摯に見つめる、人生を丸ごと捉える作家だと思いました」と語る。「だからこそ、友達と過ごすことの、あるいは人を愛することの喜びという、かけがえのない瞬間を映画にしたかった」

 映画は、函館郊外の書店で働く固有名詞を持たない「僕」と、一緒に暮らす失業中の静雄(染谷将太さん)、ある夏の日に「僕」と関係を持った同じ書店で働く佐知子(石橋静河さん)の3人を中心に描かれる。「僕と佐知子」「佐知子と静雄」「静雄と僕」、それぞれの関係を互いに観察しながら、3人は、飲み、踊り、笑う。そんな微妙なバランスのもとに成り立つ彼らの、幸せな日々は永遠ではなかった……。

 映画では舞台を、原作の東京郊外から函館に、時代も80年代から現在に移した。「原作では天候や風土に左右される人間の感情が描かれていました。映画では3人が函館という港町特有のさわやかな気候や気配に救われているところもある」と三宅監督。映画では描かれていないある悲しい事件について、原作で「僕」は「もし雨が降らなければ」起こらなかったかもしれないと語る。「衝撃的なのは事件そのもの以上に、天候に左右される人間のいい意味での軽さでした」。だからこそ、映画では「晴れていてほしい」と願い、撮影時に「晴天待ち」もしたという。

素晴らしい俳優たちを映画館で味わってほしい

 3人の俳優、柄本佑さん、染谷将太さん、石橋静河さんが、とにかく素晴らしい。三宅監督も賛辞を惜しまない。「本当に気持ちのいい人たちなんですよ。同じ映画好きとして、プロフェッショナルとして、フェアに映画作りができました。彼らを見つめることでもしかすると、自分自身や今の世の中を見つめることにもつながるかもしれない。同じ時代にこんなに素晴らしい俳優がいることを、映画館でとことん味わってほしいですね」

「きみの鳥はうたえる」の一場面 (c)HAKODATE CINEMA IRIS

 石橋さんは、「僕」、静雄、書店の先輩の3人という、男性の間で揺れ動く女性を演じるが、その笑顔をみると「しょうがない」と全てを許せてしまう。「ある理性を超えたところで、体が反応してしまうような魅力を、誠実さを持って、それぞれの男たちと、そして映画自体に向かい合ってくれました」。クラブで3人が踊る印象的なシーンでも、コンテンポラリーダンスでアメリカやカナダに留学した経験もある石橋さんがひときわ輝いている。「踊っている人って美しいですよね。自由で伸び伸びとした姿をスクリーンで見るのは、映画を見る喜びでもあるので、手応えがあるシーンです」と自信をにじませる。

 3人で夜明けの函館の街を歩くシーンも美しい。「原作にも『朝まで飲まなければやっていられない日』が描かれていますが、僕らの人生にもそんな日がたまにありますよね。そんな一晩飲んで遊んだ日の興奮と疲れが混ざった感じを、彼らの姿に重ねました」。同じく飲み明かして朝を迎えた先輩男性2人の姿や、恋に落ちた後輩男女ら、「僕」の同僚の姿もカメラは捉える。「車窓や展望台から夜景を見て『この街の中、それぞれの人生がある』と感じる時の喜びにも似た、誰もが小さな物語を抱えていることを、街と共に感じられる場面にしました」

映画と恋愛は相性が良い

 三宅監督が初めて映画を撮影したのは15歳の頃。「普通の映画好きの中学生」だった三宅少年は、「映画には全部ある。音楽も、文学も、絵画も、あと体も動かせる」ことに気づき、映画にひかれていった。映画の面白さに開眼するきっかけとなったのは、高校生時代に見たエドワード・ヤン監督の「ヤンヤン 夏の想い出」(2000年)と青山真治監督の「EUREKA」(01年)だという。

「一番好きなのは、トニー・スコット監督と俳優のデンゼル・ワシントンが組んだ映画です」と語る三宅唱監督=東京都新宿区の新宿武蔵野館で2018年8月23日、西田佐保子撮影

 映画「やくたたず」(10)でデビューして本作は4作目だが、恋愛映画を撮るのは初めて。撮影の中盤までは「めちゃくちゃ楽しく、一生恋愛映画だけ撮っていたいと思った」というが、終盤になると、「恋愛はつらい」という「当たり前のこと」に気付いた。

 「これは大変だぞ、恋愛って何だよ、と。でも僕にとって映画を撮ったり見たりするのは、相手のいいところを映すとか見つけるとか、なお好きになったりすることでもあるので、映画と恋愛の相性の良さを初めて認識しました」。そう語りながらも「でもあえて言うと、実はこの映画の大きなテーマの一つは、友情だったのだと改めて思いますね。友達になること、友達で居続けることの喜びと難しさに関するドラマだと、今は解釈しています」と続けた。

 これまでに時代劇やドキュメンタリーを手がけ、今年はインスタレーションを発表するなど、ジャンルを横断して活躍する三宅監督にとって、映画とは?

 「人生は1回しかない。どの瞬間も1回きりです。それを記録して、残すのが映画の役割で、『目の前にはどのような世界が広がっているのか』から出発して記録するのが、僕の映画です。目の前にある函館の街、そして素晴らしい俳優たちを撮った『きみの鳥は--』は、この映画でしか感じられない喜びや爽やかさのある、ひと言で表せない感情に浸れる、そんな作品だと思います」


みやけ・しょう 1984年、札幌市生まれ。一橋大学社会学部卒業、映画美学校フィクション・コース初等科修了。初長編作品「やくたたず」(10)を発表。劇場初公開作「Playback」(12年)は、第65回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品され、第27高崎映画祭新進監督グランプリ、第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞した。ドキュメンタリー「THE COCKPIT」(14年)は、ドイツで行われた第15回ニッポン・コネクションのニッポン・ビジョンズ部門審査員賞を受賞。最新作は、「ワイルドツアー」(19年公開予定)。

上映情報

【きみの鳥はうたえる】

新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペースなどで公開中。全国順次公開

公式HP :http://kiminotori.com/

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