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タトゥーはなぜタブー視されるのか

入れ墨を入れた主人公が大きく描かれた任侠映画の大看板=1971年(昭和46年)12月、真島誠一撮影。毎日グラフ1972年(昭和47年)1月2日号より

 タレントのりゅうちぇるさんが両肩にタトゥーを入れたことを自身のインスタグラムで公表したところ、批判が相次いだ。タトゥー(入れ墨)は世界各地で古くから行われてきた身体装飾の一つで、最近でも腕にタトゥーを入れた海外のスポーツ選手などを目にする機会は多い。現代の日本でこれほどタブー視されるのはなぜなのか。【和田浩幸/統合デジタル取材センター】

「こんなに偏見のある社会とは」

8月13日に投稿されたりゅうちぇるさんの写真。左肩にタトゥーがのぞく。この後、19日の投稿が論議を呼んだ=りゅうちぇるさんのインスタグラムから

 しっかりしたパパかと思っていたのに残念--。りゅうちぇるさんが8月19日、妻でタレントのぺこさんの本名と、7月に生まれた息子の名前を入れたタトゥーをインスタグラムで公表すると、そんなコメントが寄せられた。これは、一定期間を過ぎると自動的に削除される「ストーリー」という機能を使って投稿されたため、今はすでに消えている。

 りゅうちぇるさんは同21日の投稿で、子供ができたら家族の名前を刻むことを3年前に決意し「それなりの覚悟」があったこと、父親も自身が生まれた際に入れ墨を入れたことなどを説明。「それなりに予想はしてたけど、こんなにも偏見されるのかと思いました。こんなに偏見のある社会どうなんだろう。仕方ないよね。ではなく、僕は変えていきたい」と反論した。

著名人も議論「ファッションとは正反対」「再考を」

 著名人からも意見が相次いだ。

 作家の乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)さんは同26日放送のフジテレビ「ワイドナショー」で「日本では反社会勢力のシンボルになってしまっているので嫌悪感を示す人もいる。タトゥーは、はやり廃りがあるファッションとは正反対で、一生付き合っていくもの。どこまで覚悟があるのかというところを周りの人が助言してあげて、そのうえで入れたいなら『どうぞお好きに』でいいんじゃないか」と語った。

 実際、こんなデータもある。美容外科「東京イセアクリニック」が2017年に国内在住の20~40代の男女350人を対象にアンケートを実施したところ、タトゥーを入れた人の約9割が「後悔している」と答えている。

 一方、お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんは同23日、自身のインスタグラムで、漁師をしていた祖父が水死した場合に備えて左腕に「田村」と彫っていたことを明かした。「仕事に対する覚悟の表れなんだと感動したのを覚えてます」とコメントし、「僕はどんな想いで入れたのか?を(タトゥーを入れている人に)聞き続けたいと思います」「りゅうちぇるの件をきっかけにもう1度タトゥーについて考えてみてはいかがでしょうか」と呼び掛けた。

国内のイメージ「アウトロー」「犯罪」が多数

 そもそも、タトゥーや和彫りなどの入れ墨をした人は国内にどの程度おり、どんな印象を持たれているのだろうか。

 関東弁護士会連合会が14年、全国に住む20~60代の男女1000人を対象に行ったアンケートによると、入れ墨をしている、または過去にしたことがある人は1.6%だった。入れ墨から連想されること(複数回答)として、55.7%が「アウトロー」、47.5%が「犯罪」を選び、「芸術・祭・ファッション」(24.7%)などを大きく引き離した。

 そして、入れ墨への法規制を求める声は33.9%に上った。実際に入れ墨をした人物から暴行、脅迫などの被害を受けたと答えた人は4.5%で、実害に比べてネガティブなイメージが広がっている実態が浮かぶ。

 また、タトゥーを誰が入れるかによって受け止め方は異なるようだ。芸能人については「構わない」と考える人が33.8%で、「許せない」の35.9%と拮抗(きっこう)した一方、家族に関しては「許せない」が81.4%と圧倒的で、「構わない」の6.6%を引き離した。

 りゅうちぇるさんの場合、冒頭の「しっかりしたパパかと思っていたのに」という批判が象徴するように、家族の領域に踏み込んだことで、よりネガティブな印象を持たれた可能性がある。

「時代や地域、文化で価値観は違う」

 入れ墨の起源ははっきりしない。しかし、「イレズミと日本人」(16年)を著した都留文科大の山本芳美教授(文化人類学)によると、古代から世界中で行われてきたことが確認されている。「儀礼や刑罰、ファッションなど、時代や地域、文化によって入れ墨に対する価値観は大きく異なる」と山本教授は解説する。

 日本では縄文時代からあった可能性が指摘されているほか、3世紀の日本を記録した中国の「魏志倭人伝」にも入れ墨の習慣が記されている。帰属する集団のシンボルだったり、呪術的な意味を持っていたりした可能性があるという。

 8世紀の奈良時代に国内で書かれた「古事記」と「日本書紀」には、入れ墨は天皇が与えた罰などとして登場する。江戸時代には、罪を犯すごとに入れ墨を入れる刑罰もあった。奉行所や藩によって方式が違い、中には3回目で「犬」という字になるよう、額に入れ墨をしていた例もあるという。

 一方で江戸時代には、とびなどの職人や火消し、(人ベンに峡の旧字体のツクリ)客(きょうかく)などの間で奇抜な図柄を全身に入れる日本独自の入れ墨が流行し、一部では憧れの対象ともなった。

明治23年に禁止されるまで、沖縄の既婚女性たちは貞節を証明する手段として「入れ墨」をしていた=沖縄で橋本保治写す。毎日グラフ1968年(昭和43年)1月7日・14日合併号より

 それが明治時代になると、訪日外国人の目を気にした政府が彫り師とその客、伝統的な儀礼として入れ墨をしていたアイヌや沖縄の人たちまでも旧刑法などで取り締まり、習慣は廃れていった。こうした出来事が「公序良俗に反する」という印象を強めたと山本教授は指摘する。

「任侠映画」がネガティブイメージに拍車

 とはいえ、戦後しばらくは「入れ墨は格好いい」という意識も残っていたようだ。

1964年に東京・明治神宮外苑の絵画館前広場で行われた消防出初式で行進する入れ墨の参加者たち

 1964年1月6日の毎日新聞夕刊によると、東京都知事や外国大使館員らが出席したその日の消防出初め式に、江戸時代の火消し組織の名残がある人々が入れ墨姿で加わっていた様子が描かれている。66年8月12日夕刊も、入れ墨の人たちが納涼イベントで「背中自慢」をする様子を写真付きで伝え、見物客から「いっせいに拍手とカメラが集中した」と記している。

1966年8月12日の毎日新聞夕刊の記事。入れ墨の人たちによる「納涼ホリモノくらべ」が夏の風物詩として紹介。記事には「滝を浴びながら、いなせなおじさまたちが、背中のホリモノを競い合うのはなかなかの壮観」とある。

 ところが、山本教授の研究によれば、60~70年代を中心に任侠(にんきょう)映画が流行したことで、暴力団と結びついて入れ墨は反社会的なものという意識が定着した。同時に、内風呂が普及して銭湯で他人の裸を見る機会が減り、悪いイメージが独り歩きした可能性があるという。

 実際、14年の香川大教育学部の研究報告によると、この時期に生まれ育った40代以上の世代は、入れ墨を許容する人の割合が30代以下よりも明らかに低い。

「さまざまな価値観や異文化の受け入れが重要」

 92年には暴力団対策法が施行され、公衆浴場などで入れ墨をした人を排除する動きが広まった。その結果、13年には北海道恵庭市の温泉施設が、顔に伝統的な入れ墨をしたニュージーランドの先住民族の入浴を断り、「人種差別」と批判される事態となった。

リオ五輪で体操・床運動の練習をするトルコ人選手。その腕には五輪のタトゥーが=ブラジル・リオデジャネイロのリオ五輪アリーナで2016年8月3日、小川昌宏撮影

 山本教授は言う。「日本では入れ墨を文化として肯定する層とアウトローだと否定する層が重層的に暮らしてきましたが、60年代以降は印象がアウトロー一色に上書きされてしまった。でも、人類の誕生以来続く文化を排除することは不可能です。世の中が国際化し、20年には東京五輪・パラリンピックが控える中、さまざまな価値観や異文化を受け入れることが今後ますます重要になるのではないでしょうか」

「タトゥーにネガティブもポジティブもない」

 また、人々の装いに詳しい東京未来大の鈴木公啓(ともひろ)准教授(社会心理学)はこう語る。

 「タトゥー自体にネガティブもポジティブもありません。あらゆる装いは個人と社会のすり合わせを経て評価されます。ピアスや茶髪もかつてはネガティブなイメージでしたが、今はファッションとしてある程度定着している。タトゥーが話題に上るということ自体、評価が過渡期を迎えているということかもしれません」

アルゼンチンのメッシ選手(右手前)も腕にタトゥーをしている=ロシア・サンクトペテルブルクで2018年6月27日、長谷川直亮撮影

 ちなみに、米国の世論調査会社「The Harris Poll」が米国内の2225人を対象に15年に実施した調査では、タトゥーを入れている人の割合は03年に比べて13ポイント増の29%だった。一方でタトゥーのない人のうち、タトゥーのある人を「反抗的」と感じる人は12ポイント減って45%だった。

 鈴木准教授は「米国でも年齢が高いほどタトゥーをネガティブに捉え、若い世代は許容する傾向がある。世代交代が進めば社会に広まっていく可能性もある」と指摘する。

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