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欧州ニュースアラカルト

サマータイム 廃止に向かうEUを待つ難題

サマータイム制度の廃止を提案したユンケル欧州委員長=AP

「時代遅れ」の制度

 2020年東京五輪・パラリンピックの「暑さ対策」として、サマータイム(夏時間)の導入案が浮上して1カ月半。この間、与党内の推進派からは「主要7カ国(G7)のうち、サマータイムを導入していないのは日本だけ」(遠藤利明・元五輪担当相)などのかけ声が躍ったが、40年近くサマータイム制度が定着していた欧州連合(EU)では、市民の強い要望を受けて廃止される見通しになった。欧州で廃止論が高まった経緯は本欄で紹介した通りだ。

 EU域内では、すべての国が3月の最終日曜日に時計の針を1時間進めて夏時間とし、10月の最終日曜日に標準時間(冬時間)に戻す。これが、EU法で義務づけられている。

 行政執行機関の欧州委員会は今月12日、時計の針を年に2度動かす現行制度を来年廃止する方針を加盟国と欧州議会に正式に提案した。14日には今後の手続きを説明する欧州委員会の記者会見がブリュッセルであった。シェフチョビッチ副委員長は、制度の存続を問うパブリックコメントで「過去最大」となる460万件超の意見がEU域内の市民から寄せられたこと、その84%が健康への悪影響への懸念などから時間の切り替えの廃止を望む声だったことを改めて強調し、提案の理由を次のように述べた。

 「時間の切り替えは時代遅れであり、もはや道理にかなっていない。サマータイムの慣習は第一次、第二次世界大戦にさかのぼる。省エネのための戦時中の政策だった。(いったん廃止されたものの)多くの欧州諸国は1970年代のオイルショックに伴い再度導入して今まで適用されてきた。しかし最新の研究では省エネ(効果)は限定的だと確認されている」

現在の「夏時間」「冬時間」どちらを使うのか

 廃止にあたり、欧州委員会は現在の「夏時間」と「冬時間」のどちらを通年で適用するかは加盟国の判断に任せることにした。仮に全域で統一しようとすれば、緯度の差で昼と夜の長さが大きく異なる加盟国間で対立が生じる。年に2度の時間の切り替えを早期にやめることを最優先させた結果だった。

 提案では、すべての加盟国は来年3月31日の日曜日に「夏時間」に切り替える。標準時間を「冬時間」としたい加盟国は10月27日の日曜日に時間を戻し、「夏時間」を通年適用する加盟国はそのまま継続する。どちらの場合でも来年10月27日以降の時間の変更は認めない。

 加盟国は来年4月までに、現在の「夏時間」と「冬時間」のどちらを通年適用することにするか欧州委に通告するという提案だ。ただ、EU離脱を決めた英国を除く全加盟国と欧州議会が今年中にも制度の廃止を正式に承認しなければ実施することはできない。現在のところ廃止に反対する加盟国はみられないが、共通政策を巡る意思決定に時間がかかるEUにとっては、厳しいスケジュールだといえる。

アイルランドは「島内で時差」も

 主な懸念は二つある。

 まずはEU域内の時差が複雑になる可能性だ。現在は経度の差に従って三つのタイムゾーンに分かれている。今は同じタイムゾーンに属する加盟国が異なる標準時間を採用することも考えられ、社会的な混乱も予想される。欧州委員会によると、北欧では「冬時間」、南欧では「夏時間」の通年適用を望む傾向があるという。

 もう一つはブレグジットだ。来年3月29日にEUを離脱する英国は、今回の欧州委員会の提案に従う必要はなく、これまでのところ時間の切り替えを維持する方針だと報じられている。この場合、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドが接する北海道ほどの面積のアイルランド島では、約半年おきに島内で時差が生じる可能性がある。島内の国境管理を巡って進展が滞る離脱交渉で新たな争点となりかねない。

 欧州議会を含めて欧州では数年前から時間の切り替えがもたらすさまざまな影響についてのエビデンス(科学的証拠)が集められ、議論が重ねられてきた。それだけに廃止に向かうのは自然の流れといえるのだが、欧州委員会は今回、8月中旬に締め切ったパブリックコメントの結果が出るや否や制度の廃止を提案した。来年にも廃止するという提案はさすがに性急さを否めず、在ブリュッセルの記者たちの間でも驚きをもって受け止められている。

 なぜ欧州委員会は急ぐのか。視野にあるのは来年5月の欧州議会選挙だ。緊縮政策や難民危機などを経て「ブリュッセルの官僚主義」の象徴である欧州委員会に対する遠心力は強まり、EU懐疑派躍進への警戒感が高まっている。欧州委員会にとってサマータイム廃止は、市民の声に真摯(しんし)に耳を傾け、実行に移す姿勢をアピールするまたとない好機なのだ。また来年秋の退任が迫るユンケル欧州委員長のレガシーづくりとの臆測も飛び交っている。【八田浩輔】

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