SUNDAY LIBRARY

岡崎 武志・評『水の匂いがするようだ』『たそがれてゆく子さん』ほか

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷

今週の新刊

◆『水の匂いがするようだ 井伏鱒二のほうへ』野崎歓・著(集英社/税別2200円)

 今年は井伏鱒二生誕120年に当たる。小説、史伝、詩、釣りエッセー、童話、翻訳と、豊かな広がりで昭和を生き切った。しかし、屈折や謎もあり、正面からぶつかった評伝は意外に少ない。

 『水の匂いがするようだ』は、仏文学者の野崎歓が著者だから意外な組み合わせ。それだけに大胆な推論と、細心のテキストクリティックで、新しい井伏鱒二像を造形した。出世作『山椒魚』はもちろん、親友・青木南八との思い出を書いた『鯉』、あるいはペンネームの「鱒二」(本名・満寿二)、多くの釣り文学と、たしかに「水の匂いがするようだ」。

 圧巻は『黒い雨』を論じた章で、ベニマスの養殖、被爆者たちの「水をくれ」の訴えほか、「水」が頻出すると指摘。ヒロイン矢須子を「水の女」と規定することで、著者の読みが補強される。しかも、そこで生と死が交差する。

この記事は有料記事です。

残り1414文字(全文1813文字)

あわせて読みたい

注目の特集