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沼野充義・評 『モラルの話』=J・M・クッツェー著、くぼたのぞみ訳

 (人文書院・2484円)

文学に何ができるか

 南アフリカ出身のノーベル文学賞作家、クッツェーの最新短編集である。比較的短い七編から構成されるコンパクトな作りの本。しかし、それにしても「モラルの話」というタイトルを、ずばり直球で投げかけてくる剛直さは、いまどき稀(まれ)ではないか。

 もちろん、単純な道徳的教訓を引き出せるような作品集ではなく、文学的な企(たくら)みに満ちたものばかりである。最初のごく短い「犬」は、「猛犬」に吠(ほ)えられて恐怖心を抑えられなくなる女性の話で、あっという間に読み終えていったい何のことかと怪訝(けげん)にさえ思うのだが、本の全体を読んでから立ち返ってみると、人間と動物の関係、理性では制御できない情動、共感と暴力といった、本書全体を貫くモチーフが埋め込まれていることに気付く。次の「物語」は、束(つか)の間の不倫を楽しみながら、まったくやましさを感じず、幸せな結婚生活を続ける女性の話。

 そして三つ目の「虚栄」以降の五編は、以前のクッツェー作品にも登場するエリザベス・コステロという架空の女性作家の晩年を点描していく連作になっている。六五歳の誕生日に年甲斐(としがい)もなく派手な変身を遂げて子供たちを驚かし、七二歳になって体が衰えてきても子供たちとの同居の誘いを頑とはねつけ、さらにいつの間にかスペインの片田舎に一人で移り住み、十数匹の野良猫を世話し、村の厄介者とされる露出癖の「愚者…

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