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障害者、高校入試で定員内不合格 「学びたい」に応える環境を=エリア報道センター・桜井由紀治

識字教室「星空」で増住恵さん(左)から褒められ、喜ぶ権田祐也さん=神戸市兵庫区で、桜井由紀治撮影

 今春、重度脳性まひの中学男子生徒が、夜間定時制の神戸市立楠高校(同市兵庫区)を受験、受験者数が募集人員を下回る定員割れだったのに不合格となった。兵庫県淡路市の権田祐也さん(16)。県内の公立高校入試でただ一人の「定員内不合格」だった。卒業後の行き場を失った祐也さんは、楠高校内にある識字教室に通うが、「高校生になりたい」という思いは消えない。障害者の定員内不合格は全国の高校で相次ぐ。共に学ぶとは何かを考える。

    週2日の識字教室

     「東京五輪は何年に開かれますか。五つの中から答えを選びなさい」。楠高校元教師の増住恵さん(65)が読み上げる選択肢の一つ「2020年」に、祐也さんは「うん」と大きくうなずく。「正解。よく分かったな」。増住さんに褒められ、彼は顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

     楠高校の図書室にある識字教室「星空」。学ぶ機会に恵まれなかった高齢者や在日外国人ら約20人が読み書きを習う。春以降、家にこもりがちでストレスをためる祐也さんを知った増住さんが、ボランティア講師をする星空に誘った。母由記子さん(43)が付き添い5月から通う。週2日80分程度の学習時間だが、彼にとって唯一の学びの場だ。

     祐也さんは身体障害者手帳1級の最重度で、自ら体を動かせず全面介助が必要だ。話すことができず筆記も取れないが、「はい」「いいえ」の意思表示はできる。増住さんは選択肢問題ばかりのプリントを作り、一対一で教える。「教える側に彼とつながろうという意識さえあれば、通じ合える」と手応えを感じる。

     人との関わりが大好きな祐也さんは、すっかり教室に溶け込んでいる。家が貧しく学校に通えなかったという女性(76)は、別れ際「またね」と彼の手を握り、彼も笑顔で応える。70歳を過ぎて字を覚えた在日コリアンのハルモニ(おばあさん)は「星空に来る人はみんな仲間。学びたい気持ちは痛いほど分かる」と、優しいまなざしを向ける。

     親子が学習を終え校門を出る夕方、楠高校の生徒が登校してくる。合格していたら、この中に息子もいたはずだ。そう思うと、由記子さんはつらい。祐也さんも彼らを目で追いかける。「この子も高校生になりたいんだ」

    看護師配置の例なし

     祐也さんは障害のない子と一緒に地域の学校に通った。小学校のマラソンでは、級友が交代で彼の歩行器を押して走った。中学では野球部に所属。背番号をもらい、最後の試合は円陣の中心に入った。みんな嫌な顔ひとつせず、流れるよだれを拭いてくれた。彼らが自然に接することができるのは、幼い頃から地域で共に成長してきたからだ。

     祐也さんも友達から刺激を受けて伸びてきた。3桁同士の掛け算の筆算も解けるようになった。友達と同じように、高校へ行きたいという気持ちが芽生えた。代読・代筆者を付ける入試に備え、「はい」なら声を出して大きくうなずき、「いいえ」なら黙って首を横に振る訓練を重ねた。

     祐也さんは3歳の時胃ろう手術をしており、医療的ケアが必要だ。淡路市は、保育所、小中学校と彼の進学先に看護師を配置した。一方、神戸市は市立高校に看護師を配置した例がない。祐也さんを支援する障害当事者団体「障害者問題を考える兵庫県連絡会議」(障問連)の要請に対して、市教委は「受験者が合格した段階で、看護師配置を検討する」と約束していた。

     ところが祐也さんは80人の定員に対し61人が受験した今春の1次入試で唯一不合格、再募集の2次試験でも不合格だった。親子は1人だけ受験番号のない合格者名簿に、涙をあふれさせた。試験結果を開示請求すると、1次は全教科で得点、2次では1次を上回る点数の教科もあった。

     合否は、校内の判定委員会で決める。定員内不合格者を出す場合、神戸市では校長から市教委に報告、判定が妥当か協議する。毎日新聞の取材に、市教委は「個別の入試結果については答えられない」としながら、「当該校の判定は妥当だった」と強調する。

     合格発表直後、由記子さんは校長に不合格理由を聞いた。校長は「学校にはそれぞれ基準があって、不適合と判断した」などと説明。「どうやったら合格できるのか」と食い下がると、校長は「この1年間で彼が劇的に成長するとか」と発言したという。

     「障害を克服しろということか。この子に空を飛べというのか」。先月28日、市教委との交渉で、父学さん(43)は校長発言に憤った。由記子さんも「重度障害者は何度受験しても受け入れてもらえないのか。息子は行く所がなく、毎日家で泣く。今後どうしたらいいのか途方に暮れている」と訴えた。障問連などは「障害を理由にして入学拒否した差別だ」と抗議した。

    全国で同様例相次ぐ

     13年成立の障害者差別解消法は、障害を理由にした差別的扱いを禁じている。文部科学省は同年、学校教育法施行令を改正。子供の就学先について、障害の種類で振り分ける「分離別学」を改め「本人・保護者の意見を最大限尊重する」と通知した。だが、義務教育ではない高校進学を望む障害当事者の権利は保障されているとは言い難い。

     文科省の17年度「公立高等学校入学者選抜の改善等に関する状況調査」によると、志願者数が定員に満たない場合の対応について、(1)「定員内でも不合格にする可能性がある」32道府県(2)「定員内であれば原則不合格は出さないこととしている」15都府県--と(1)が圧倒的に多い。障害者の高校入学運動を進める「どの子も地域の公立高校へ・埼玉連絡会」は、連携する地域から寄せられた情報だけでも今春、6県で6人の障害者が定員内不合格だったという。祐也さんの兵庫と愛知、福岡の3県は、同省調査に(2)と回答していた。

     香川県では、言語と知的に障害がある石川桃子さん(28)が、自宅から歩いて5分の県立丸亀高校・定時制を14年連続で受験しているが、今春も定員内不合格とされた。千葉県でも、重度脳性まひで医療的ケアが必要な渡邊純さん(20)が6年間で23回受験、すべて落とされている。

     一方、同じ千葉県では昨年、県立東葛飾高校・定時制を定員内不合格とされ、1年浪人した知的障害のある石崎智大さん(17)が今春、同校に合格した。発表の日、校長は「つらい1年間にしてしまい、申し訳なかった」と謝罪した。

     同会事務局の竹迫和子さん(66)は「教委が定員内不合格を出さないよう指導すると共に、介助など現場の応援態勢を整えていかなければ、障害者が排除される状況は変わらない」と指摘する。

     障害者の多くは、定時制に行き場を求めている。定員割れの学校を狙うという事情もあるが、「教育の安全網」として、多様な生徒を支えてきた学校の特色にも期待する。

     楠高校も30年前から、障害者や高齢者に門戸を開き、増住さんらが寄り添ってきた。今年度は、障害者手帳所持者が4学年で62人在籍(5日現在)、在校生206人(同)の3割を占める。祐也さんのような医療的ケアが必要な重度障害者も、環境整備したうえで受け入れたい。教育が行き場を閉ざしてはならない。

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