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探査機

カッシーニ土星突入から1年 成果を改めて振り返る

米欧の探査機カッシーニは土星大気突入前に土星の輪に何度も突入することに挑戦した(想像図)=米航空宇宙局提供

日本惑星協会の井本昭・事務長が寄稿「さらに大仕掛けのミッションプランを」

 米欧の土星探査機「カッシーニ」が20年の任務を終えてから1年がたつ。その後、日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が目的地の小惑星リュウグウへ到着し、米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「インサイト」が打ち上げられ、来月には日本と欧州の水星探査機「ベピ・コロンボ」が打ち上げられるなど、次への挑戦が始まっている。日本惑星協会の井本昭・事務長がカッシーニの成果を改めて振り返り、次世代の惑星探査への期待が寄せられた。

次世代の惑星探査への期待

 太陽系が作られたこと、地球で生命がはぐくまれていること、さらには地球の外で何物かが生きていて私たちの目から逃れ続けているのではないかということ。惑星探査ミッションは、このような当たり前で根源的な謎を解き明かそうとするものだ。

 はやぶさ2が今年6月に小惑星リュウグウに到達し、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」もまもなく目指した小惑星ベンヌにたどり着く。NASAの木星探査機「ジュノー」は、着実に成果を私たちに届け続けてくれている。

 1年前、土星ダイビング(土星の大気へ突入)によって燃え尽き、土星の一部となったカッシーニは、今、私たちにどのような感慨、もっと単純に言えばどれほどの「思い出」を残しているのか。

 筆者は現在、NASAジェット推進研究所(JPL)のニュースを日本語に訳した解説を、日本惑星協会ウェブサイトに掲載している。カッシーニ関連のほとんどすべてのNASA発信のニュースを紹介した。さらに、これらの記事を掲載した今年春ごろからアクセスが桁違いに増えた。関連は定かではないが、「何らかの関心に応えられているのかもしれない」と感じている。

 そこで、カッシーニに関する日本語ニュースから昨年のグランドフィナーレ(土星大気に突入し運用終了)を振り返り、カッシーニの探査の意義を改めて考えてみたいと思う。

取得データが土星の衛星での水熱反応示唆

米欧の探査機カッシーニは土星の衛星エンケラドスからの噴出物を観測した。含まれる物質から生命の存在の可能性が示された=米航空宇宙局提供

 カッシーニが取得したデータから、海底での熱水噴出によって生成される「ナノシリカ」という粒子の存在が明らかになった。東京大の関根康人教授が率いるチームが、エンケラドスでの海底の水熱活動環境を実験的に作り、一定の条件でのみ、この粒子が作られることを解き明かしたものだ。同様に放出された多量のメタンガスと併せ、生命が存在する環境が非常に高い確度で見込まれるというニュースであった。ここからエンケラドスの謎とその解明に世界中の興味は深まっていった。

 タイタンでのフライバイ(通過観測をするとともに天体の重力によって飛行のアシストを得る運用)は127回にも及び、フライバイ観測では、生命が存在する可能性を研究する上で、大変重要なデータを取得した。タイタンの大気に地球上で原始的な生物の基礎となった可能性がある分子を検出したのだ。エンケラドスと並び、太陽系地球外生命を探るべき最も有力な天体であることを地球に住む私たちに知らしめたといえる。科学者が求める科学的な成果に対して、カッシーニはきちんと仕事をしたといえる。探査機のタイタンによる重力アシストが軌道制御に果たした役割が重要であったことも併せて記憶しておきたい。

壮大なフィナーレを迎える最後の1年

米欧の探査機カッシーニが撮影した土星の衛星タイタン。詳細な観測によって生命存在の可能性を明らかにした=米航空宇宙局提供

 カッシーニが終わりをを迎えるちょうど1年前にリリースされたこのニュースは、「グランドフィナーレ」と名付けられた土星へのダイビングミッションを宣言したものだった。ミッションの内容は土星本体とリングの謎解きに集約していき、「さよならタイタン」「また会おうエンケラドス」と言える衛星観測の段階を終えた時期であった。しかし、ここから始まる1年は、それまでの十数年をはるかにしのぐ、驚くべき軌道デザインによる挑戦的なコマンドを打つミッションであった。

 ミッション最終年(2017年)のカッシーニは、4月から土星と最小半径のリングの間を22回にわたって通過することになった。極方向を周回する極端な楕円軌道から、日本列島ほどの狭い隙間(すきま)にダイビングするというのだ。

 筆者は「これは何か起こるぞ」と不安になったが、筆者の思惑など全く関せぬように、いとも当たり前のように22回のダイビングは成し遂げられた。17回目のダイブでは「もっと土星をかすめるような軌道にしよう」と、衛星の重力アシストを利用して土星大気層のすぐ外を回る軌道へと修正したのだった。ここまで来ると、軌道デザインチームの「神業」といえよう。最後の周回では、タイタンによる重力アシストで土星半径よりも小さな軌道半径へと変更された。つまり、土星の大気圏の中を通過するのだ。衝突とは言いたくない。

 後に分かったのは、実は最初のリングダイビングの際、リングの内側空間の状況がよくわからないため、探査機に搭載された大型アンテナを「盾」として突入したということだ。横殴りの雨が降っているとき、傘を横方向に向けて歩くのは皆さんも同様だろうが、カッシーニもそのようにして初回のダイビングに臨んだのだ。

 17回目のダイビングが完了し残り5周回となったのは、フィナーレのおよそ1カ月前。探査機は土星の雲頂(地球上の海面水準に相当する高度)から1600キロ余りにまで距離を縮める。大気の上層すれすれだ。3周回目までの測定で想定よりも密度が小さい場合、残り2周回の軌道高度をさらに200キロ下げることになっていた。これにより、イオンと中性質量分析計(INMS)によって惑星の雲頂に近い大気上層のデータを取得することができるのだ。

グランドフィナーレの「完結」

 最終周回で軌道が土星内部の方向を向く。動く科学機器のデータをリアルタイムで地球に送信を続けたカッシーニは、土星リングを最後に眺めながら、「ゆっくり」というわけにはいかず猛スピードで土星に落ちて行く。これでカッシーニミッションは終幕となる……。

 当時の大方のメディア解説は、だいたいこのようなものであった。しかし「グランドフィナーレ」はNASAにとって、より緻密な計算に基づくものだった。

 カッシーニは17年9月15日午前4時55分(米国夏時間)、土星の推定雲頂に達する1分ほど前のポイントで大気圏に突入する。その際の時速は11万3000キロにも達する。地球が太陽を周回する速度よりも速い。

土星探査機カッシーニが土星の大気に突入、通信が途絶えてミッションが終わったことを喜ぶ管制室=米航空宇宙局提供

 大気に接触後、稼働する観測機器から得られるデータを地球に送るため、姿勢制御の化学エンジンはアンテナを地球方向に向ける活動を始める。大気が濃くなるとエンジンの噴出を上げていく。アンテナがわずかでも地球方向からずれると、二度と通信はかなわなくなり、ミッションは終了してしまう。実際は、突入直後から地球に送られ続けた信号から、エンジンの動作は最後まで正常であったことが確認されている。

 摩擦と加熱に耐えられなくなった直後、探査機本体は流星のように燃焼し始め、信号の消失から約30秒以内に探査機の分解が始まり、2分以内に探査機の残骸はすべて土星の大気中で完全に破壊される。その際の高度は1510キロ。オーストラリアのキャンベラにあるNASAの大型アンテナで午後4時55分(米国夏時間)に信号を受信し、これがカッシーニとのコンタクト喪失の瞬間だった。

 今後、長い時間をかけ、得られた観測結果を精査することになる科学者たちの一人、リンダ・スピルカー氏は「私たちカッシーニプロジェクトチームは、もう探査機が宇宙に存在しないことを分かっているし、昨日までとは違う日々がやってくることも知っている。それでも、地球から夜空を見上げて土星を見つけるたびに、カッシーニが今もそこにいるって感じることになることも分かっているのよ」と感傷的に語っている。

 カッシーニのニュースを振り返り、思うのは今後の惑星探査の行方である。

 太陽から遠く離れた太陽系の外縁部を目指す探査機に、2機のボイジャーと冥王星以遠の天体の探査に挑むニューホライズンズ(いずれもNASA探査機)があるが、カッシーニは、現在の技術で目標天体に並走しつつ、地球からの指令に従って探査できる天体として最遠の土星系を目指した。ミッションチームは、土星の「その場」で「狙っていたもの」を確実に獲得した。土星系の磁気圏、生命存在の可能性、リング形成のプロセス、多数の衛星データなどだ。

 しかし、突き付けられた謎も非常に多い。次期土星探査機でも、さらなる不思議や謎を私たちにもたらすかもしれない。つまり、際限なくこうした太陽系探査への挑戦は続いていくことになると考えられるのだ。

 日本が実施している小惑星探査など小天体への探査の行方も、カッシーニミッションと同様に思えてきた。地上観測で何度も調べた天体の種類が、そこにたどり着いてみると「想定」とは違って見えてくる。はやぶさ2が訪れたリュウグウの素顔が意外な事実の連続であることからも分かるだろう。そのとき、単に表面を観測する以外の、天体表面を掘るなどの技術を駆使して同じ天体を再探査するのか。もしくは観測機器などの前提条件を設定せずに、大きな概念に基づいてプロジェクトを新たに設計するのか。もう、はやぶさ2継続ミッションの話すら出始めている。さすがにそれは早計かもしれない。

 惑星探査は、現在の技術では主に「発見探査ミッション」にとどまり、完全なる解明にはとても及ばない。探査機会ごとに、はやぶさやはやぶさ2のような「サンプルリターン(試料を地球へ持ち帰るミッション)」が必要だとは思わないが、発見と解明をてんびんにかけ、解明を実現するにはさらなる大仕掛けのミッションプランが必要になるだろう。一足飛びにミッション規模を大掛かりにすることはできないが、さまざまな経験を経た今、探査機工学は着実に進歩していると思う。

 今を生きる私たちにとってはもどかしいことも多い。しかし、常に完全な満足は与えてくれない、だからこそ続けなければならないのが「惑星探査」というものなのかもしれない。


日本惑星協会 Space Topics 日本語訳ニュース解説(http://planetary.jp/topics/)

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