オピニオン

激しい運動は健康にいい? 適当な強度を調べる 国際文化学部 地域創造学科 助教
塚本 未来

2018年10月1日掲出

 健康やアンチエイジングを語るときに出てくる「抗酸化」や「酸化ストレス」といった言葉。それらの働きと、実際の運動の強度に関係があるのかどうか。運動を健康に生かす方法について研究している国際文化学部地域創造学科の塚本未来助教に聞いた。【聞き手・銅崎順子】

 

 

 ――研究のきっかけは何ですか。

 大学3年生の時、体の仕組みや運動生理学に興味を持ちました。その中で「活性酸素種」や「酸化ストレス」「抗酸化物質」が実生活にどんな影響を与えているのか、運動の強度によってその値がどのように変動していくのかに興味を持ちました。運動の強度と酸化ストレスの関係などを調べています。また、大学で教員を目指す学生を受け持つようになり、学校現場で子供の健康や体力向上の研究に携わり、次世代を担う子供たちの発育、発達を考える健康教育にも取り入れられると考えるようになりました。最近では、子供だけでなく中高年の健康についても研究を広げています。

 

 ――「活性酸素種」や「酸化ストレス」「抗酸化物質」とは、どのようなものでしょうか。

 私たちは呼吸で酸素を取り入れてエネルギーを作り出していますが、取り入れた酸素のうち数%が活性酸素種に変化すると言われています。活性酸素種には良い面と悪い面があるのですが、活性酸素種ばかりが生成されると、体に良くないので活性酸素種の働きを解消する機能の一つが抗酸化機能です。ビタミンCやセサミンに代表される抗酸化物質や体内にある抗酸化酵素の働きで活性酸素種を消去したり他の物質に変換させたりします。抗酸化物質に比べ活性酸素種が増えて、デオキシリボ核酸(DNA)やたんぱく質に酸化損傷を与えることを酸化ストレスと呼びます。酸化ストレスのレベルが上がると、がんや糖尿病、認知症の原因になると言われていますので、それらのレベルを血液や尿で調べて数値化するという研究をしています。また、活性酸素種は悪者のようですが、細菌などの異物を除去するなど、免疫系で重要な役割を担っているので、無くて良いというものではありません。

 運動すると活性酸素種が増えます。体に心地よい負荷がかかる中程度の運動では、年齢に関係なく酸化ストレスは上がりません。しかし、短時間で疲労困憊(こんぱい)になるような運動は一時的に活性酸素種による酸化ストレスが上がるという実験結果が出ました。また、運動以外の心的ストレスでも活性酸素種は高くなります。教育実習に行く大学生を調べたところ、教育実習に必要な授業準備など慣れない作業が多く、緊張が高まるため活性酸素種の生成が増えました。終了後は平常値に戻ったことから、実際に学生に数値を見せて「精神的なことも含めて体のことに気を付けなさいよ」ということを伝え、健康教育につなげています。

 

 ――「ヨガと自律神経のバランス」という研究もされていますが、なぜヨガなのですか。

 運動習慣のない方が高齢期から運動を始めるケースは少ないものです。しかし、低負荷で高齢期からでも始めやすい運動なら、気軽に取り組んでもらえます。最近のヨガはどちらかというと“○○×ヨガ”といった話題性を取り入れており、本来のヨガは、あまり世の中に広く浸透していません。科学的なエビデンスがあれば、高齢者も今まで運動をしなかった方でも始めてくれるかもしれないと考え、女性に人気のヨガを研究に取り上げました。本来、ヨガは呼吸を整え、静的な動作をするものです。心拍の微妙な変動を記録することで自律神経活動のバランスを評価しました。加齢による自律神経活動の変化というものを調べていますが、加齢によって自律神経の活動自体が下がるということが分かっています。下がるということはマイナスに働くことになりますので、ヨガの前後でどうなるのかということも調べました。中高年の調査ですが、ヨガを5年以上続けている方は5年未満の方よりも加齢に伴う自律神経活動の低下を抑制する結果になりました。どのように健康寿命につながっているのか、いろいろな年代で引き続き研究していきたいと考えています。

 

 ――小規模校の児童の運動能力についても研究されています。

 道内児童100人未満の小学校で調査をしています。学校の裏に学校林があって、毎週木曜20分間、自分のペースで走り続けるということから調査しています。1周700メートルで高低差があり、冬は隣接するゴルフ場でクロスカントリースキーをします。ただ毎週走るだけですが、子供にとってはそれなりに大変な運動です。自己肯定感が高まり、将来にわたっての運動習慣がつくようです。

 また、児童のみならず、働き盛りの世代では、子育てや親の介護もあり、運動をする時間が不足している世代には、“ながら”運動を推奨しています。私も1日に1回は研究室のある10階まで階段を上ったり、ちょっとした隙間(すきま)時間にスクワットをしたりしています。高齢期に歩行や日常生活に支障が出る運動器症候群(ロコモティブ症候群、ロコモ)になっても大変ですので足腰を鍛えることは大切ですが、やり過ぎも良くありません。

 

 ――今後取り組みたいテーマは何ですか。

 腸内細菌叢(そう)です。現在取り組んでいる酸化ストレスや自律神経と関連付けて腸内細菌叢の研究をしたいと考えています。大まかな腸内細菌叢の良し悪しは尿検査でも分かるようになっています。酸化ストレスが高くなると腸内細菌叢のバランスが悪くなるとか、その反対もまたあるなど、予備実験では、1日3食カップラーメンを食べている大学生の腸内環境は悪いことが判明しています。若さで健康面に影響は出ていませんが、継続した場合、どのような影響が出るのか研究したいです。

 腸内細菌叢は、恩師から1939年初版「メチニコフの生涯」(岩波書店)という本を譲られたのがきっかけで知りました。イリヤ・メチニコフ(1845-1916年)は、ロシアの生理学者で1908年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。腸内細菌叢のことについても言及しています。まだ一握りしか科学的に証明されていないので、身近なこととして学生や社会へ橋渡しできればと考えています。

 

 ――若い人へメッセージをください。

 何かをやりたいと思ったら、とことん調べるようにしてください。昔と違って、今は情報化社会で知識は簡単に得られます。その知識を知恵に変換することで生活の知恵として上手な生き方を身に付けてほしいと思っています。

 

国際文化学部 地域創造学科 助教 塚本 未来 (つかもと みく)

北海道教育大学札幌校学校教育教員養成課程卒業、北海道教育大学大学院(札幌)教科教育専攻保健体育教育専修(教育学)修了、同時期に札幌医科大学保健医療学部研究生。2007年、札幌市立真駒内小学校教諭。2008年、国立大学法人北海道教育大学岩見沢校研究補佐員 兼 北海道公立大学法人札幌医科大学研究支援員。2009年、学校法人東海大学国際文化学部地域創造学科 特任助教を経て2016年より現職。2014~2016年、子どもの体力向上パワーアップ事業(体力向上先導的総合実践事業)アドバイザー(北海道教育委員会)。専門は健康教育・健康科学・運動生理学。研究内容は健康に有益な運動の検討(酸化ストレスの視点から)子どもの身体活動量、生活習慣、自律神経活動についての研究。