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共に生きる・トブロサルダ

大阪コリアンの目/225止 /大阪

母親は真っ先に祭壇を設け、娘との幸せな日々の再開を祈った=金光敏さん撮影

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 ◆引き裂かれたフィリピン人親子

同居再開、十字架に願い 手弁当持参で待ち続け

 「キムさん知っていましたか?」との問い合わせがあった。聞けば、児童相談所から里親に預けられた子どもが、母親と内緒で会っていたというのだ。

 母親はフィリピン人。再三のDVに我慢できず、内縁関係にあった男性に傷害を負わせた。事件現場に娘もいて、駆けつけた警察官によって保護された。そのまま児童相談所が保護を始め、後に里親に委ねられた。

 母親は数か月後に釈放された。しかし、母子が暮らしたアパートに戻るも、家財の一切がなくなっていた。日本から強制送還されるとのうわさが広がり、同郷の人々が盗んでいったのだ。そのうえ収監中の家賃滞納で住む場所も追い出された。

 数日間は知人のところに身を寄せた。しかし、そう長くもいれないからと、敷金・礼金のないワンルームを自力で借りた。かろうじて残されていた荷物を移動させ、母親は生活を再開した。一文無しに近い状態だから彼女はすぐにホステスの仕事に戻った。

 暴力の被害に遭い続けたことは放置され、身を守ろうとして抵抗した行為が罪に問われた彼女。唯一の肉親である娘とも会えない失意の歳月を過ごした。家庭訪問すると、狭くて何もない部屋で小さなお膳を祭壇にしてキリスト像を飾り、あかりをともして祈りを捧げていた。心に宿る神の存在が、せめてもの母親の癒やしになればと願った。

 学校で児童相談所職員の立ち会いのもと、娘との再会を果たした。抑え込んでいた感情が一気にこみあげ、号泣しながら抱きしめた。でも再会は一時。児童相談所は娘よりも先に母親を退室させた。夕暮れの校門で何度も振り返りながら娘の影を追い、泣きながら帰路につくその姿は今も忘れられない。

 冒頭の私への問い合わせはその数カ月後だ。里親宅が遠いために地下鉄に乗って帰る娘を駅の改札前で待ち、準備してきた弁当を食べさせていたという。母親は娘が好みのフィリピン料理を準備していた。券売機の横の空間で立ちながら食べさせていたという。

 里親宅でもちろん夕食は出た。娘もばれないように我慢して食べていたようで、案の定、体重が増えていた。おかしいと思った児童相談所と学校が調べて気がついた。娘は母親を気遣い、絶対にそのことを認めなかった。それが逆に「子どもにうそをつかせてまでルール違反をした」と母親が責められた。児童相談所の職員は「娘の保護期間を延長することになるかもしれない」と語った。

 母親と定期的に面談していた私は彼女の娘への思い、ひとりで生きることの寂しさ、ときには「私がいないほうが娘は幸せになれる」と涙を流す姿を見ていた。児童相談所にお願いした。「聞けばほぼ毎日、駅で待っていたらしく、時間がわからずにすれ違いも少なくなかったという。そこに娘が通ると知って、会えるかわからないまま毎日弁当持参で待ち続ける母親の姿にこそ親子再生のヒントがある。寛容な判断を」と。

 当初の予定通り、小学6年だった娘の卒業に合わせて母子同居が認められた。あれから1年半。母子が暮らすワンルームには今も十字架にあかりがともる。かき消されそうになりながらも、懸命に生きる小さな家族の姿。彼女らが希望を持って生きられる社会をつくる、私は私にその使命を課し、これからも現場で踏ん張ることを誓いたい。

   ◇  ◇ 

 私が出会った多くの子どもや親たちの姿をこのコラムで紹介してきました。また、私のアイデンティティーに関わる朝鮮半島や在日コリアンの出来事や思い、私の家族のこと、社会の動きから感じたことなど、幅広い話題を私なりの視点で文章にし、発信してきました。

 まだまだ書きたいこと、書くべきことはありますが、傷つきながらもたくましく生きる子どもたちの様子、社会的孤立を乗り越えて懸命に暮らしを営む人々の日々を、読者の皆さまに長期にわたり、ストレートに届けられたことには、大きな意義があったと自負しています。

 何よりも現場従事者としての役割を執筆でも見いだせたことは、私にとっても大きな転機となりました。この経験を生かし、今後の活動に役立てていこうと思います。

 このコラムが始まって9年と3カ月。今回が225回目。このコラムをお読みくださった読者の皆さまに深くお礼を申し上げます。またどこかでお目にかかる機会があろうかと思います。その時はどうぞよろしくお願いします。長い間、本当にありがとうございました。皆さま、お元気で! チョンマル カムサハムニダ

   ◇  ◇ 

 「トブロ サルダ」は今回で終わります。<文と写真 金光敏>


 ■人物略歴

 1971年、大阪市生野区生まれ。在日コリアン3世。特定非営利活動法人・コリアNGOセンター事務局長。多文化共生、人権学習の教育コーディネーターを務め、さまざまな子どもたちを支援するソーシャルワークにも取り組む。

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