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特集「里親のカタチ」

10月は里親月間――虐待や親の病気などさまざまな理由で家庭で暮らせない子どもを、養子としてではなく、必要な期間だけ家庭に受け入れる「里親制度」。里親などへの子どもの委託率は約18%で、国際的に低い水準だが、国は2016年の児童福祉法改正に伴い「乳幼児75%以上」「学童期以降50%以上」に引き上げる目標を示した。里親家庭にはどういうものがあり、そこでどのような絆が育まれているのか。里親家庭のさまざまなカタチを取材した。

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特集「里親のカタチ」

サヘル・ローズさん 育ての親と絆強く 異国の地で二人三脚

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「大好きな母が一緒にいてくれるうちに、できるだけ愛と感謝を伝えたい」と話すサヘル・ローズさん=東京都渋谷区で7月3日、和田大典撮影 拡大
「大好きな母が一緒にいてくれるうちに、できるだけ愛と感謝を伝えたい」と話すサヘル・ローズさん=東京都渋谷区で7月3日、和田大典撮影

母と娘 大の仲よし

 7歳の時に施設から育ての母に引き取られた女優のサヘル・ローズさん(32)。一緒に暮らした長い年月と互いの愛情がかけがえのない「母娘」の絆を育んだ。

 「サヘル、今何してるの?」。サヘルさんは、1日に何度かかかってくる母フローラさんからの携帯電話に移動や撮影の合間などに応じる。母とは東京都内のマンションで2人暮らし。仕事の邪魔にならないよう無料通信アプリ「LINE(ライン)」のメッセージも送られてくる。「大好きよ」とか「サヘルちゃんは世界で一番よ」など愛情のこもった言葉が母国イランのペルシャ語で並ぶ。LINEには、サヘルさんの好きなディズニーアニメのキャラクター「アリエル」のスタンプも。帰りが遅くなると、寂しそうなウサギのスタンプも送られてくる。出張時には、携帯のビデオ電話で顔を見て通話する。帰宅したら互いにハグ。サヘルさんとフローラさん、2人は大の仲良しだ。

家計は厳しくとも 母は20代前半の時、7歳だったサヘルさんを施設から引き取って一緒に暮らそうと決めた。知人を頼って来日したが、すぐに母娘2人の生活になり、じゅうたん織りなどきつい仕事をしてサヘルさんを育てた。

 「小学生の時、週に1度、スーパーのフードコートで320円の塩ラーメン1杯を母と2人で食べました。母はいつも少ししか食べず、『私はおなかいっぱいだから』と残りを私にくれました。でも、帰りのバスで母のおなかが空腹で鳴るのです」

 小学生の時、家に風呂がなく、近所のコインシャワーで2人一緒に体を洗った。湯が止まるまでに洗いきれるよう、先にシャンプーを頭で泡立ててから硬貨を投じたが、ゆすぎ切る前に止まることもたまに。そんな時も、2人で声をあげて笑った。お金も血のつながりもないが、母娘の絆はどんどん強くなっていった。

地域にも助けられ

 来日して間もないころ、母に仕事がなく生活に困った。そんな時、給食をたくさんお代わりするサヘルさんに気付いた給食のおばさんが事情を尋ねてくれた。おばさんは母に仕事を紹介し、2人を食事に招いてくれた。この女性とは今も交流が続いている。

 週末に大型スーパーの試食で空腹を満たしたこともある。ある日、店員の女性に呼び止められ、しかられるのかと身構えたら、「いつも来るね。これ、持って帰って食べて」と手製のおかずを手渡された。

 「いろんな人に助けられて育ちました。だから、困っている人を見たら自分に何かできないかと考えるようになりました」

施設の子ども支援

 サヘルさんは茨城県の児童養護施設を数年前から支援している。施設関係者から講演を依頼されたのを機に訪問を始め、子どもたちから「お姉さん」と慕われ、いろいろな相談を受けるようになった。

 「子どもたちに外の世界も体験してもらいたいと思い、20~30人を泊まりがけで横浜・中華街に招待したり、動物園に連れて行ったりしました。お年玉をあげると、『初めてもらった』と喜ぶ子も多くいます。いろんなことをずっと我慢してきた子どもたちなのです」

 サヘルさんと母は、お正月や週末などに子どもを1泊~1週間ほど家庭に迎える「週末里親」を将来やりたいと、検討している。「母は子ども好きなので、本当の孫のようにかわいがると思います」

大切な2人の時間

 サヘルさんは中学生の時に長くいじめにあったが、母を悲しませたくないので黙っていた。しかし、中3のある日、母も生活苦について初めて弱音をはいた。「母もまた無理をしていたのだと分かりました」。そこから2人の信頼関係はさらに深まっていった。

 大人になってタレントの仕事も軌道に乗り、これからやっと恩返しができると思い始めたとき、母の体が思いのほか弱っていることに気付いた。じゅうたん織りの仕事で無理な姿勢をとり続けたため首にヘルニアをわずらっている。ひざも痛み、階段を下りるのがつらくなった。

 「母がいかに苦労して私を育ててくれたのかを改めて認識しました。母がいつまでもそばにいるわけではないということも。一緒にいてくれる間にできるだけ愛と感謝を伝えたい。そう思って大好きな母との時間を大切に過ごしています」【岩崎日出雄】


 虐待や親の病気などさまざまな理由で家庭で暮らせない子どもを、養子としてではなく、必要な期間だけ家庭に受け入れる「里親制度」。里親などへの子どもの委託率は約18%で、国際的に低い水準だが、国は2016年の児童福祉法改正に伴い「乳幼児75%以上」「学童期以降50%以上」に引き上げる目標を示した。里親家庭にはどういうものがあり、そこでどのような絆が育まれているのか。里親家庭のさまざまなカタチを取材した。


さまざまなイベント開催

 毎年10月の里親月間やその前後には、各都道府県やさまざまな自治体、里親支援団体などが里親制度を集中的にPRする。フォーラムや講演会、トークショー、パネル展、個別相談会など。里親の体験談や里親家庭の雰囲気に接する機会も多い。各地の主な関連行事は厚生労働省のホームページで。

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