連載

特集「里親のカタチ」

10月は里親月間――虐待や親の病気などさまざまな理由で家庭で暮らせない子どもを、養子としてではなく、必要な期間だけ家庭に受け入れる「里親制度」。里親などへの子どもの委託率は約18%で、国際的に低い水準だが、国は2016年の児童福祉法改正に伴い「乳幼児75%以上」「学童期以降50%以上」に引き上げる目標を示した。里親家庭にはどういうものがあり、そこでどのような絆が育まれているのか。里親家庭のさまざまなカタチを取材した。

連載一覧

特集「里親のカタチ」

支援もさまざま 悩み解決 広がる輪

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷
夏休みの過ごし方を話し合う里親ら(後方右端が新井淳子会長、同2人目が福島里美さん)=横浜市都筑区で
夏休みの過ごし方を話し合う里親ら(後方右端が新井淳子会長、同2人目が福島里美さん)=横浜市都筑区で

「里親は孤独じゃないんだよ」――里親家庭には行政からの支援のほか、里親同士のつながりや支援機関によるバックアップもある。拡大する支援の取り組みを紹介する。

サロンや臨床心理士の助言/こども未来横浜

 強い日差しの中、幼児を連れた母親たちが横浜市都筑区の市北部児童相談所に次々集まってきた。一般社団法人「こどもみらい横浜」が7月9日に開いた地区別サロンに参加する里親たちだ。

 会専属の臨床心理士、福島里美さんのミニ講座「ほめ方・しかり方」を聴いた後、「夏休みの過ごし方」について13人の参加者全員で情報交換をした。

 同法人は横浜市の里親支援機関として指定され、当事者団体ならではのきめ細かいサポート活動を展開。サロンも毎月開いている。会員の里親は約120世帯。新井淳子会長は「サロンを拠点に里親同士が支え合い、仲間がそばにいることを実感できる。問題意識や情報も共有できる」と話す。

 里親会が行政から支援事業を受託するケースは全国でも珍しい。サロン以外の事業は、互いを深く理解し質の高い支え合いにつなげる「傾聴研修」や専属の臨床心理士による専門的アドバイス、普及・啓発など。臨床心理士の福島さんは4年前から個別相談にも乗っている。学校でトラブルや非行などがあった際、児童相談所の児童心理司らにも相談できるが、相談日の調整が必要だ。福島さんはより迅速に対応でき、里親たちにとって心強い。

 このほか、夏の研修旅行(1泊2日)やクリスマス会、日帰りバスツアーなどの交流事業も多く、イベントを通して他の家族との交流が深まる。「自分が里子だと知った子どもは誰にも言えず悩みを抱えることがある。そんな時、さまざまなイベントで親しくなった子ども同士で悩みを打ち明けることで救われることも多い」(新井会長)という。【小川節子】

交流事業や学校対応改善/埼玉県里親会

8月の週末、埼玉県里親会の地域団体「南はなみずき会」の里親・里子ら約30人は貸し切りバスで山梨・長野を旅行した。行きのバスでは子どもたちがマイクを握ってクイズ大会。渓谷を歩き、温泉旅館ではビンゴやカラオケ。翌日もバーベキューやブドウ狩りで夏を満喫した。他にも花見やクリスマス会など多彩な交流行事がある。

 里子が暮らしやすい環境にしていくため、行政への働きかけも行う。2017年12月、県教育委員会が市町村教委などに「社会的養護を受ける児童生徒への配慮について」という通知とリーフレットを配った。授業や進級進学・卒業式などの場面での里子・元里子らへの配慮について記されている。希望があれば、卒業証書に戸籍名ではなく普段使っている名前(里親の姓)を書くなどの内容だ。

 きっかけを作ったのは、さいたま市を含む県内の里母らで結成した「埼玉里母の会」だ。同会で、小学校の「生い立ちを扱う授業」が話題になった。自分の成長を振り返る内容で、出生直後の写真や名前の由来を求められる。16年にアンケートを行い、里親ら104人の回答を得た。授業後に約2割の里子に「落ち込み」が見られ、「授業をやめてほしい」との意見も17%あった。結果は県議会で取り上げられ、通知へとつながった。

 これとは別に、里子らの学校生活で配慮してほしいことをまとめた「ひまわりのチラシ」もある。学校との話し合いに活用してもらうために県里親会が17年に会員に配った。同会の石井敦理事長(60)は「個別解決が難しい問題は意見集約して政策判断してもらうなど、子どもの最善の利益のために尽くしたい」と話す。

 同会は、多彩な活動実績が認められ、制度推進に熱心な県から里親支援事業も今年度から委託されている。【榊真理子】

乳児院の強み生かし/大阪の支援機関「つむぎ」

 大阪府泉大津市の和泉乳児院(栗延雅彦院長)は院内に里親支援機関「つむぎ」を設置し、昨年度から府の里親支援機関事業を受託している。内容は、里親制度の広報啓発や里親希望者への研修、委託後の支援などだ。

 専従職員3人。広報啓発では、イベント開催のほか、ポスターやリーフレット、しおりなどを作製し、ポスティングなどで配布。行政に依頼して市バス車内にポスターを無料で掲示してもらうなど、工夫をこらす。小学校校長会や地元の郵便局で制度紹介も行う。「例えば、小学校の生い立ちに関する授業で配慮してもらうなど、教師が里親制度を知ることで、里親家庭が困難を感じる場面が減る。地域の理解が深まれば、里親家庭が暮らしやすい環境になり、里親の増加にもつながる」と担当者は話す。

 つむぎによると、里親家庭を乳児院がケアする場合の強みがある。例えば、乳児院にいた子どもを里親が受け入れる場合、乳児院でその子どもをみてきた職員と里親が連携して養育できるし、看護師や臨床心理士などの専門家もいる。また、職員が常駐しているので、行政への連絡が難しい週末でも対応できる▽小さなことでも相談しやすい――といった点も里親から好評だという。

 里親の不安や精神的負担を軽減できるよう、児童相談所と連携して委託前後の個別相談に小まめに応じているほか、家庭訪問も行う。民間なので、行政にはしにくい相談を受けるケースもあるという。今年6月には、里親サロンを開催し、約20人が参加した。10月には、午前は研修会(別室で子どもを保育)、午後は子どもも入って交流会という流れを予定。将来は、里親希望者にも加わってもらい、リクルートの一助にすることも検討している。【岩崎日出雄】

「チームで療育 負担感軽減」=国立成育医療研究センター こころの診療部 奥山真紀子・統括部長

国立成育医療研究センターこころの診療部の奥山真紀子・統括部長
国立成育医療研究センターこころの診療部の奥山真紀子・統括部長

 家庭への委託率を乳幼児期75%以上などとする国の目標は、施策を適切に実行すれば、十分に可能だ。里親になることを検討する際、子どもに何かあったら大変な責任になると考えてためらう人も多い。しかし、里親家庭での子どもの養育は、児童相談所(児相)や里親のリクルートや支援などを一貫して行うフォスタリング機関、里親がチームで行うものであり、里親に過失がない場合の最終責任者は委託元の自治体となる。フォスタリング機関の普及を急ぎ、チーム養育の内実を高めることで里親の負担感を下げていくべきだ。

 児相も従来は家庭よりも施設に子どもを委託する傾向が強かった。家庭の場合、事後のケアが児相の負担になるからだ。この点もフォスタリング機関がケアを分担することで解決できる。施設も子どもを懸命に養育しているが、職員数や事務量などの関係で家庭養育ほど密には子どもと関われない。例えば、赤ちゃんが泣いた時、抱き上げるのが少し遅れるだけなら自我の発育を助ける場合もあるが、大きな遅れは「あきらめ」につながり、人に対して安心感が持てない子どもに育ってしまう。家庭委託へのシフトは子どもの最善の利益であり、官民協力して本気で進めるべきだ。

「委託先探し 地域性見て」=日本女子大人間社会学部・林浩康教授

日本女子大人間社会学部の林浩康教授
日本女子大人間社会学部の林浩康教授

 国は、里親など家庭への委託率の実現目標を「乳幼児75%以上」「学童期以降50%以上」と示している。2016年改正の児童福祉法で家庭での養育を優先する原則が明記され、目標を50%以上とし、乳幼児に関して上乗せ設定するのは妥当だ。

 委託率の自治体間の格差は、新潟市51.1%~堺市8.3%、全国平均18.3%(2016年度末)と大きく、その格差の是正と里親養育の支援体制が大きな課題である。

 目標達成のため、児童相談所(児相)だけが行ってきた里親委託業務を並行して担う「民間フォスタリング機関」が位置づけられている。児相や民間フォスタリング機関の重要な業務である「里親のリクルート活動」は不特定多数に向けて広く浅く行われているが、子どもが身近な地域で委託されるべきであることを考えれば、地域の特性に配慮した里親開拓が必要だ。また、例えば定年退職をした夫婦や第2子を望む夫婦といったように、里親像を明確に絞ったリクルートも必要であろう。

 児相や支援機関を含むチームの一員として里親が子どもを養育するという意識の浸透や、子どもの専門的ケアや日常生活ケアなどを担う体制づくりが重要だ。


 虐待や親の病気などさまざまな理由で家庭で暮らせない子どもを、養子としてではなく、必要な期間だけ家庭に受け入れる「里親制度」。里親などへの子どもの委託率は約18%で、国際的に低い水準だが、国は2016年の児童福祉法改正に伴い「乳幼児75%以上」「学童期以降50%以上」に引き上げる目標を示した。里親家庭にはどういうものがあり、そこでどのような絆が育まれているのか。里親家庭のさまざまなカタチを取材した。


さまざまなイベント開催

 毎年10月の里親月間やその前後には、各都道府県やさまざまな自治体、里親支援団体などが里親制度を集中的にPRする。フォーラムや講演会、トークショー、パネル展、個別相談会など。里親の体験談や里親家庭の雰囲気に接する機会も多い。各地の主な関連行事は厚生労働省のホームページで。

あわせて読みたい

注目の特集