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社説

消費税率10%まで1年 将来に向き合う誠実さを

 来年10月1日に予定される消費税率10%への引き上げまであと1年となった。3年前に行うはずだったが、安倍晋三首相が景気への影響を理由に2回も延期していたものだ。

     首相は今回「基本的に上げていく」と述べている。だが増税の原点をわきまえているようには見えない。

     消費税は急速な高齢化社会を支える重要な財源である。

     高齢化で増え続ける社会保障費を巡り、政府は多くを借金で賄ってきた。積み上がった国の借金は1000兆円超と危機的な状況にある。

     このままでは将来世代が背負う借金が膨らむ一方だ。無責任なつけ回しをなくすには、現在の世代の負担を増やすことが避けて通れない。

    高齢化と人口減の危機

     ところが首相は、先の自民党総裁選で党のインターネット番組に出演した際、「できれば上げたくない。しかし昨年の総選挙で約束した教育無償化を始めるには上げなければならない」と述べた。増税の目的を自分に都合良くすり替えるものだ。

     増税による税収の多くは、将来へのつけ回しに歯止めを掛けるのが目的だった。なのに首相は教育無償化に充てると変更してしまった。無償化は大事だが、引き換えに将来に負担を先送りするのはおかしい。

     加えて首相は増税時の景気対策として大規模な財政出動を行う方針も打ち出した。景気への一定の配慮は必要だが、借金の膨張を防ぐための増税分を、過度の景気刺激策で使い果たすようでは本末転倒だ。

     来年の増税時は食料品などの税率を8%に据え置く軽減税率が導入される。低所得層の負担を軽減し消費落ち込みを防ぐ効果が見込める。

     同じ品目でも店内飲食と持ち帰りで税率が異なるなどまぎらわしいケースもあるが、円滑な導入に向け政府は対策に万全を期してほしい。

     そもそも税率10%はゴールではない。日本社会は今後、かつてない高齢化と人口減少という構造的危機に直面し、これに見合った社会保障制度を構築する必要があるからだ。

     厚生労働省などは今年5月、高齢者人口がピークの約4000万人になる2040年度の社会保障費は今より68兆円も多い約190兆円に膨らむとの推計を初めて公表した。

     主な財源である保険料と税金のうち、税金での負担は30兆円以上多い約80兆円に増える。大和総研によると、この80兆円をすべて消費税で賄う場合、税率を20%程度に上げなければならない計算になるという。

     人口の急減という問題もある。厚労省などの推計は65年には総人口が8000万人台に減るという国の見通しを前提にしている。高齢者を支える働き手が減少すると1人あたりの負担も重くなるのは不可避だ。

     税率10%は、自民、公明、旧民主3党が12年に合意した「税と社会保障の一体改革」に基づく。ただ、ベースとなったのは、団塊の世代がすべて75歳以上になる25年度までの社会保障費の推計である。

    青写真示す政治の責任

     新たに40年度までの推計が示され、社会保障費は一段と膨張することがはっきりした。ならば、さらなる負担増も含めた「ポスト一体改革」の議論は待ったなしである。

     それなのに首相は、目先の景気を優先し、抜本改革に本格的に取り組もうとはしてこなかった。3年前に打ち出した「50年後に人口1億人」という現実離れしたスローガンをいまだに掲げている。

     首相は今後3年間で社会保障改革を行うと表明した。だが示したのは年金受給開始年齢の選択肢を広げることくらいである。憲政史上最長の政権を担うというなら、長期的課題に対する責任もより重くなる。

     深刻な人口減少が進む日本は高成長を望みにくい。加速する高齢化社会を支えるには、国民全体で負担を分かち合う重要性が一段と高まる。理解を求めるのは政治の役割だ。

     首相は少子高齢化を「国難」と呼んだ。それなら危機を乗り切れる負担と給付の青写真も示すべきだ。

     石油危機後の財政難に陥っていた1979年当時、大平正芳首相は施政方針演説で消費税導入の必要性をこう訴えた。「財政があらゆる要求に適応できた高度成長期の夢はもはやこれを捨て去らねばならない」。その年の衆院選で敗れたが、不人気な政策にも正面から取り組む政治のあるべき姿を示したと言える。

     厳しい将来に誠実に向き合い、痛みを伴う改革に踏み込むことも辞さないのが指導者の責任である。

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