メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「ふつう」に生きるということ

/7 自分のため みんなのため

 ぼくともだちの「かれ」は運動会うんどうかい大好だいすきです。はしるのが得意とくいかれは、毎年まいとしリレー選手せんしゅにえらばれ、クラスの代表だいひょうとしてグラウンドをかけぬけています。とくに去年きょねんは、かれの「ごぼうき」で優勝ゆうしょうりました、今年ことしもやるまんまんです。

     ところが! 選抜せんばつリレーのまえにある、クラスの全員ぜんいんリレーでタスキがあしにからまってしまい、かれおもいっきりころんでしまいました。

     かれのクラスはビリ。いたみなんて関係かんけいありません。くやしくて、なさけなくて、かれ教室きょうしつにもどっていていました。しだいに気持きもちもちついてきたのですが、みんなにもうしわけない気持きもち、ずかしい気持きもちでどうしたらいいかわからなくなったかれは、だれもいない教室きょうしつにかくれていました。

         *

     「あいつ、ころんじゃったけど、大丈夫だいじょうぶかな? さっきから見当みあたらないんだけど」

     なかよしのともだちはかれ姿すがたえないことが心配しんぱい様子ようすです。ちかくにいるおなじクラスのおんなおなじことをかんがえていました。

     「ころんで、ひざからめっちゃてたもんね。だいたいタスキがながすぎたんだよ。バトンにすればあぶなくないのに」

     2ふたり運動会うんどうかいよりもかれのことが心配しんぱいでしかたありません。こっそりおうえんせきをぬけだして、かれをさがしにいくことにしました。

         *

     ほどなくして、2ふたり教室きょうしつのすみっこでふさぎこんでいるかれつけました。

     「なんだ、こんなとこにいたの? みんな心配しんぱいしてるよ。おうえんせきにもどろうよ」

     きはらしたかれです。かれは、こえをふりしぼるようにいました。

     「おれのせいでけちゃったからさ。みんなになんてったらいいかわからなくて」

     2ふたりはビックリしました。

     「みんな、おまえがケガしたんじゃないかって心配しんぱいしてるよ。それにまだ選抜せんばつリレーがあるじゃん。おれはしるのすげー苦手にがてだから、られるだけでうらやましいよ」

     かれすこしホッとしましたが、すっかり自信じしんをなくしてしまった様子ようす不安ふあんそうにしているかれおんなおおきなこえいました。

     「去年きょねんのヒーローが今年ことしいてるのって、なんだかへんかんじね。もう一度いちどヒーローになるチャンスはまだあるじゃない!」

         *

     みなさんの学校がっこうでは宿題しゅくだいがでますよね。毎日まいにち毎日まいにち漢字かんじ計算けいさん練習れんしゅうをするのは、大変たいへんですが、勉強べんきょう自分自身じぶんじしん将来しょうらいのために役立やくだつ、とても大切たいせつなものです。

     おな大事だいじなものでも、運動会うんどうかい場合ばあい、ちょっとちがいます。自分じぶんたちのがんばりが、みんなのしあわせにつながるからみんなでよろこび、自分じぶんたちの失敗しっぱいが、みんなのかなしみにつながるから、みんなでへこむのが運動会うんどうかいです。

     そう。自分じぶん自分じぶんのためにあせをかく。みんながみんなのためにあせをかく。このふたつのがんばりでぼくたちの社会しゃかいはできているのです。

     たとえば、大人おとなたちはがんばっておかねをかせぎ、自分じぶん家族かぞくのために使つかいます。ですが、そのおかね一部いちぶは「税金ぜいきん」としてあつめられ、どこかでだれかのために使つかわれます。

     がんばってかせいだおかねが、ほかのだれかのためにりあげられる、そうけば、みなさんはいやな気持きもちになるかもしれません。

     でもみなさんは、授業料じゅぎょうりょうなしで学校がっこうかよえますよね。それは、大人おとなたちがはらった税金ぜいきん費用ひようがまかなわれているからです。きみたちのそだち、まなびは、大人おとなぼくたちのしあわせです。大人おとなたちは、みんなのしあわせにつながるからこそ、税金ぜいきんをはらっているのです。

         *

     きみたちが大人おとなになったとき、今度こんどは、きみたちが未来みらいどもたちのしあわせのために税金ぜいきんをはらうばんになります。おかねられるのは、だれだっていやなこと。でも、それがきみたちにとってもしあわせなことになるといいな、ぼくはそうねがっています。

     運動うんどう得意とくいもいれば、苦手にがてもいる。でも、自分じぶんてばみんながうれしい、みんなでてばみんながうれしい、それが運動会うんどうかい自分じぶんいたみそっちのけでともだちのためにかなしむ。自分じぶんたちがけるくやしさをわすれて、ともだちのケガを心配しんぱいする。そんな姿すがたていると、ぼくはほっこりした気持きもちになりますし、社会しゃかいもそんなふうになってほしいとおもいます。

         *

     「あれ? おしゃべりしているあいだに、逆転ぎゃくてんしてるじゃん。いそいでもどらないと」

     「おれはリレーられないけど、みんなと一緒いっしょおもいっきりおうえんするからね」

     「ありがとう! 今度こんど絶対ぜったいつよ!」

     みんながみんなのために。2ふたりをひかれるかれはすっかり笑顔えがおです。


     財政学者ざいせいがくしゃ井手英策いでえいさくさんが、社会しゃかい仕組しくみをものがたりをつづります。

    ぶん井手英策いでえいさくさん

     1972年生ねんうまれ。慶応大学経済学部教授けいおうだいがくけいざいがくぶきょうじゅども3にんのおとうさん。

    川辺洋平かわべようへいさん

     1983年生ねんうまれ。NPO法人ほうじんこども哲学てつがくおとな哲学てつがくアーダコーダだいひょう理事りじ

    毎日新聞のアカウント

    話題の記事

    アクセスランキング

    毎時01分更新

    1. 宮内庁 仁徳天皇陵を発掘へ 今月下旬から堺市と共同で
    2. 森元首相 「余計なことしやがって」 石破氏依頼に苦言
    3. 個人情報 本物のパスワード記載「脅迫メール」が横行
    4. ステルス戦闘機 ハリケーン直撃で大量に大破か 米国
    5. 今どきの歴史 世界遺産候補 百舌鳥・古市古墳群(大阪府) 悩ましき被葬者論争

    編集部のオススメ記事

    のマークについて

    毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです