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岡崎 武志・評『小岩へ』『影ぞ恋しき』ほか

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今週の新刊

◆『小岩へ』島尾伸三・著(河出書房新社/税別2400円)

 ひどい両親だった。島尾敏雄と妻・ミホ。『死の棘(とげ)』に見る、狂気にいたる両親の相克を、じっと見ていたのが4~6歳だった息子の島尾伸三と妹の摩耶だった。

 『小岩へ』は、幼くして地獄を見た著者による断片的回想。舞台は戦後まもない、東京のはずれの小岩だ。評価の高い作家だった父。しかし、息子の目には、自分たちが「必要のない添え物」と映っていた。そして「嫉妬と猜疑(さいぎ)心の燃え盛る炎の中」で生きる母。

 救われるのは、まだ田畑の残るエネルギーに満ちた小岩という町の力だ。駅前のぬかるみ、活気ある商店街と、町が子どもたちの遊び場だった。どぶ板を踏みならして歩くのが楽しかった。ところが、家に帰れば平安はなく、現実が剥き出しで転がっていた。

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