福島第1原発の汚染水を浄化した処理水の8割超で、トリチウム以外の放射性物質の濃度が国の排出基準を超えていることが分かった。
東京電力と政府は基準超えを当初から知っていたが、積極的に公表してこなかった。処理水の処分に関する国民の合意形成を、自ら難しくした責任を重く受け止めるべきだ。
福島第1原発の汚染水は、国費も投じた多核種除去設備(ALPS)で浄化されている。東電は、トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値以下にできると説明してきた。処理水を薄めればトリチウムも基準値をクリアできるため、海洋放出が有力な処分方法と見られていた。
ところが、東電によれば、8月時点でタンクに貯蔵していた処理水89万トンのうち75万トンは、トリチウム以外の放射性物質を浄化しきれていなかった。基準の100倍以上の放射性物質を含む処理水だけで、6万5000トンもあった。
ALPSの稼働初期の不具合や、放射性物質を除去する吸着材の交換頻度を減らして処理効率を上げようとしたことが原因だという。
東電は処理水のサンプルの分析結果をホームページに載せていたが、会見などで説明はしていなかった。これでは情報公開とは言えない。東電の隠蔽(いんぺい)体質は変わっていないように見えてしまう。
政府がALPSに国費を投じたのは、東京五輪招致に絡み、汚染水が制御下にあることを打ち出す狙いがあった。東電に国民への説明を促さなかったのは、トリチウム以外に問題はないと国内外に印象づけたかったからだと言われても仕方ない。
東電は処理水を再浄化する方針だが、丁寧な説明を欠いた結果、ALPSの処理能力そのものにも疑念が持たれる事態を招いている。
処理水の処分について検討する政府の有識者小委員会でも「詳しい説明がこれまでなかった」「基準超えの処理水が思った以上に多い」などの意見が相次いだ。これまでの議論の土台が揺らいでいる。
福島第1原発では、あと2年ほどで処理水を貯蔵するタンクの設置場所がなくなるというが、期限ありきの処分方針決定は許されまい。透明性のある議論を積み重ね、国民合意を得る努力がさらに必要だ。