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築地市場

閉場とともに「目利き」去る 仲卸で廃業も

築地市場の豊洲移転に伴い廃業すると決めた仲卸「中源」の中島源一郎社長(中央)と青地隆さん(左)=東京都中央区で2018年9月28日、宮武祐希撮影

 東京・築地市場(中央区)が6日に閉場して豊洲(江東区)へ移転するのに伴い、約530社ある水産仲卸のうち、零細を中心に数十社が廃業するとみられている。魚の質を見極め、築地ブランドと日本の食文化を支えてきた「目利き」たちも、量を重視する取引や景気低迷の波にあらがうことができなかった。すし種を主に扱ってきた「中源」も看板を下ろし、二人三脚で半世紀を歩んできた70代の社長と番頭は魚河岸を去る。【市川明代】

もう買えなくなったウニ

 午前4時半。空がうっすらと青みを帯び始めた。中源の番頭、青地隆さん(72)は水産卸売場のさび付いた鉄の階段を上り、自動販売機でコーヒーを買う。50年間、毎朝続けてきた習慣だ。北海道産や三陸産、外国産まで、低温保管場にずらりと並んだ箱詰めのウニをのぞくと、競り場の奥にある長老たちの「特等席」に腰掛けた。

 ジリリリ……。競りの開始を告げるベルが鳴っても立ち上がらない。目の前で、海外の高級レストランや回転ずしチェーンなどの大口顧客を持つ仲卸が、次々に手を挙げてウニを競り落としていく。「昔はうちみたいな小さな店でも20~30箱は落とした。相場は上がる一方。売る相手もいないんだから、無理して買っても仕方ない」。悔しそうにつぶやいた。

 店に戻ると、社長の中島源一郎さん(75)がカツオをさばいていた。「お帰り」。手を止めて相方を出迎えた。

無口な「源ちゃん」 べらんめえの「青ちゃん」

 中源は中島社長の父源治さんが1950年に創業した。戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の統制が解除され、仲卸制度が復活した直後に築地に入った1600の仲卸の一つだ。

 先に店に立ったのは青地さん。父親は築地の仲卸の番頭で、一度は地元で料理屋を開いたがうまくいかずに舞い戻り、一、二を争う活魚の目利きとして知られていた。青地さんは高校を出てすぐに父親のいる築地へ。間もなく大学を卒業した中島さんも後継ぎとして働き始める。無口で優しい「源ちゃん」と、べらんめえ調の「青ちゃん」。対照的な2人は不思議と馬が合った。

 「お客さんに教わることも多かった」と中島さん。「ケイジは今が旬だが、競り場には並んでねえのか」。幻のサケと呼ばれる北海道・知床の名産「鮭児(けいじ)」と知らず、慌てて勉強した。「自分の目で選んで仕入れた魚が、思った通りの値で売れた時はうれしかったね」

 父親から目利きのいろはを聞いて育った青地さんは、仕事の覚えが早かった。「でも昔は長老が幅を利かせててね。小僧は荷受け(卸売業者)にも相手にされなかった。競りで高値を出しても無視されたことがあったよ」。認められたい一心で、休まず競り台に上がった。

 「コハダとスミイカとアジ、適当にそろえといてくれ」。銀座や新宿などのプロのすし職人たちが2人の目を信じて任せてくれるようになった。

「魚の良しあし分かる客」大切に

 しかし、卸売場にスーパーや飲食チェーンが入ってくるようになり、流れが変わった。買い手と売り手が直接価格交渉する「相対取引」が増え、競りが形骸化した。まとめ買いする大手に魚が流れ、質にこだわる零細の仲卸は思うような品ぞろえができなくなった。景気の低迷で手軽な回転ずしに人気が集まり、老舗のすし屋が次々にのれんを下ろした。得意先を失った中源は、経営が厳しくなった。

 息子をスーパーに修業に出したり、営業担当者を雇ったりして、客層を広げる同業者が現れる中、自分たちのやり方を貫いた。「魚の良しあしを分かってくれるお客さんを大切にしたい」。それが2人の考え方だった。

 豊洲へ行くかどうか、中島さんは最後まで悩んだ。後継ぎはいない。経費も膨らみ、行けばより苦しくなるのは目に見えている。同業者が店の営業権を買い取って中島さんたちを雇ってくれるという話が持ち上がったが、それが流れて腹が固まった。

 「来年、死んだおやじの年に並ぶんだよ。健康だけが取りえだったのに、最期はあっけなくてね」。20年前、中島さんがくも膜下出血で入院し、1年間の静養を余儀なくされた時は、店を青地さんが守ってくれた。「今度こそ潮時だなってね」。青地さんも「源ちゃんがやめるなら」と引退を決めた。

「思い残すことはない」

 閉場を1週間後に控えた朝。「シャッター通りじゃ客は流れてこないよな」と、青地さんが苦笑した。中源の右隣と、通りを隔てた向かいの3軒は空き店舗。「使用停止中」の白い札が下がる。高度成長期には、すれ違えないほど混み合った店の前の通路も閑散としている。

 それでも午前7時を回ると、常連客が姿を見せ始めた。千葉産アワビ、鹿児島や静岡のアジ、宮城・気仙沼のカツオ……。小さな店内に、2人が選び抜いた魚が並ぶ。「サバはどう?」「金華(宮城・石巻産)。でもまだ(旬には)早いんだよ」。中島さんが説く。

 廃業を伝えると、みんな残念がってくれた。仕入れに困らないよう、この1カ月、品ぞろえの似通った仲卸を紹介してきた。

 「築地で最後まで仕事をまっとうできた。思い残すことはないよ」と笑顔を見せる中島さん。青地さんが吹っ切れたようにつぶやいた。「最終日はたたき売りだな」

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