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築地閉場

「食」は人を良くすると書く…父の教え刻む仲卸

最終営業日を迎えた築地市場の水産仲卸業者売場で、「83年、本当にありがとう」と築地市場との別れを惜しみ涙ぐむ仲卸業者「大芳」の宇田川浩社長=東京都中央区で2018年10月6日午前6時40分(代表撮影)

 日本一の魚河岸・築地市場(東京都中央区)が83年の歴史に幕を下ろした。開場5年後の1940年に創業した水産仲卸「大芳(だいよし)」の3代目社長、宇田川浩さん(57)は、築地に「目利き」として育てられ、今は30人の従業員を率いている。「万感の思い。83年間、お疲れさまと言いたい」。涙ぐみながら、この日が月命日の父が愛した場所に別れを告げ、豊洲へと思いをはせた。

 午前8時半。ウニやハマグリ、カキなど100種を超える魚介類が店先に並ぶ。「これまでありがとね」「豊洲でもよろしくね」。35年間、毎日続けてきたように仕入れ、さばき、売る。でも、得意客と笑顔で短い言葉を交わし、頭を下げるたびに特別な思いがこみ上げた。

 大学を出て22歳で店に入った。祖父がもともと千葉県浦安市で取れる貝の行商だったことから、高級貝類を主に扱う。客はすし店やホテル、料理店と多岐にわたる。

 「見習いは自分の目で見て習え」。父実さんには突き放された。ウニなら粒のつまり具合や色味、いま旬の産地。そんな魚介の見極め方を、競り場で顔を合わせる、よその仲卸の先輩たちに聞いて教わった。「僕らはライバル同士のようだけど500店が集まって一つの市場なんだ」と思った。常連の料理人の「この間のは良かったよ」という言葉が自信を持たせてくれた。「手取り足取り教えても身につかない」。今、父の気持ちがよく分かるようになった。

 築地には荒っぽくも温かい職人たちの文化があった。だが、「俺が俺が」という押し出しの強い職人気質が時に「わがまま」に思えたこともある。豊洲移転を機に、良い伝統は守りながら、時代に合わせて変わらなければいけないと感じている。「例えば、人とぶつかりそうになった時『お先にどうぞ』と言える。そういうのがこれからの粋なんじゃないか」

 高校の卒業論文で築地を取り上げた長男も大学3年生になった。「『食』は人を良くすると書く。うまいものは人を笑顔にする。こんな素晴らしい仕事はない」。背中でそう教えてくれた父は10年前、77歳で他界した。月命日には墓参りを欠かさない。きょうはこう報告するつもりだ。「おかげさまで築地が無事終わったよ。今度は僕らが豊洲で新たな歴史をつくるから」【森健太郎】

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