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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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営業キロは14.3キロ、駅数にして10駅の小さな鉄道だ…

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 営業キロは14・3キロ、駅数にして10駅の小さな鉄道だ。それでも沿線住民には貴重な足。経営悪化による廃線の危機を乗り越えて第三セクターとして再出発し、今また3・1キロ延伸という夢を乗せて走っている▲開業10周年を迎えた茨城県ひたちなか市の「ひたちなか海浜鉄道湊(みなと)線」。奮闘の軌跡をモデルにした舞台「海辺の鉄道の話」が先月、水戸芸術館ACM劇場で上演された。作・演出の詩森(しもり)ろばさんは、2年かけて現地で取材を重ねた▲語り手は2匹の駅ネコ。再生を目指す鉄道に、公募で選ばれた社長や社員、応援団、高校生らの人間模様が絡む。乗客数が伸びるなか発生した大震災。限りなく実話に近いドラマが観客を揺さぶった▲それもそのはず。世界有数の鉄道大国とされる日本だが、過疎化などでローカル線廃止が相次ぐ。今年3月に島根と広島両県を結ぶJR三江(さんこう)線、来春には北海道のJR石勝(せきしょう)線夕張支線が予定される。追い打ちをかけるのが頻発する自然災害だ▲災害で不通になり、復旧のめどが立たないまま廃線の危機にさらされる路線もある。交通インフラは市民生活に直結する。湊線を巡る人々の物語があぶり出すのも、どこでどう生きるのかという普遍的な問いかけだ▲「地元の人が気づいていないことを掘り起こし、劇場の観客を増やしたい」。演劇制作が東京に集中するなか井上桂(かつら)芸術監督は地方からの発信も目指す。人が行き交う場は町の核になる。小さな鉄道の姿が、地方の公共劇場の意気に重なる。

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