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社説

ユーミンに菊池寛賞 量から質への時代を体現

 文学や演劇、映画など広く文化活動を顕彰する賞だけに、この人の受賞を当然だと思う人が大半だろう。

     半世紀近くにわたり数々の名曲を世に送り出してきたシンガー・ソングライターのユーミンこと、松任谷由実さんが菊池寛賞に選ばれた。

     多摩美術大在学中の1972年、シングル「返事はいらない」で荒井由実としてデビューした。以降、「やさしさに包まれたなら」「あの日にかえりたい」「守ってあげたい」「春よ、来い」など、誰もがタイトルを聞いただけでメロディーが浮かんでくるヒット曲が並ぶ。

     60年代後半に全盛を迎えたフォークブームは、政治の季節と並行するムーブメントだった。その後で登場した松任谷さんは、フォークともロックとも違う、独創性のあるジャンルを確立した。

     あたかも美しい水彩画を見るような言葉の選び方で、女性の繊細な情感をつづった。それを届けたのは、卓越したメロディーメーカーとしての力だ。

     授賞理由にも「高い音楽性と同時代の女性心理を巧みにすくいあげた歌詞」が挙げられた。

     松任谷さんが登場した70年代は、日本が大阪万博をへて、欧米に追いつき始めた時代だ。経済が高い成長を続け、大量消費から質の追求へと転換していった日本社会と重なる。

     都会的なセンスに彩られた「海を見ていた午後」や「中央フリーウェイ」は、若者のファッションや生活スタイルにまで影響を与えた。おしゃれな恋愛に憧れる女性たちにとっては、バイブルのようにも響いたに違いない。

     還暦を過ぎた今もなお、コンサートツアーで全国を駆け巡る。ユーミンを聴いて青春を過ごした世代だけでなく、アニメ映画などを通して知った若者たちもとりこにする。

     バブルが崩壊し、手に入るかに見えた憧れの生活も、はかない幻と消えたが、曲を聴けば「あの日」が鮮やかによみがえる。

     松任谷さんは今年4月の45周年ベストアルバム発売に際して、メッセージを寄せている。「明日へ一歩を踏み出すために、思い出から力をもらうのです」

     歌の力を、あらためて思い起こさせてくれる受賞である。

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