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加藤陽子・評 『誰のために法は生まれた』=木庭顕・著

 (朝日出版社・1998円)

未来を切り拓く最強のヒント

 著者は東大法学部で長らくローマ法を講じてきた碩学(せきがく)である。同じ大学とはいえ、評者の所属は文学部。残念、面識のないまま著者は退官された。

 法と文、二つの学部の間には、野坂昭如「黒の舟唄」ではないが「深くて暗い河」がある。むろん、教員同士が対立している訳はなく、研究棟の間に本物の河などありはしない。だが、戦争の愚を明察していた仏文学者渡辺一夫が、太平洋戦争最終盤の文学部内で一人「敗戦日記」を認(したた)めつつ感じていた寂寞(じゃくまく)を知る一方、同じ頃の法学部内で南原繁らが極秘の終戦工作に従事していた史実を知る身としては、背負ってきた歴史の違いに嘆息せざるをえないのだ。

 評者の屈託をよそに、若き学生らは学内を自由に行き来し、文学部にも木庭顕先生の評判は意外に早く伝わる…

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