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余録

その夜、川端康成は…

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 その夜、川端康成は家の書斎に一人閉じこもっていた。座敷や茶の間に顔を出せば、報道陣から写真を撮られ続けるうえ、質問攻めに遭うからだ。1968年10月17日、ノーベル文学賞発表の日のことだった▲気持ちを落ち着かせるためか、川端は一句したためている。<秋の野に鈴鳴らし行く人見えず>。巡礼の鈴の音が秋の野に聞こえるけれど、その巡礼の姿は見えない。言葉遊びだ。「野」(の)と「鈴」(ベル)で「ノオベル」。吉報は届いた▲あれから50年後のノーベル賞を期待された村上春樹さんだったが、今年は世界のどの作家にも吉報のベルが鳴ることはない。選考するスウェーデン・アカデミーのメンバーの夫によるセクハラや情報漏えい疑惑の影響である▲権威が落ちるのは避けられない文学賞ではあるが、来年こそはと期待してしまう。当時、川端は「この賞を受けていい作家は日本にもちろんいく人もいる」と書き、こう詠んだ。<先づ一羽鶴渡り来る空の秋>。大江健三郎さん以来の3羽目の鶴はいつ飛び立つか▲賞はさておき、読書人口の減少が心配だ。それでも書店にカフェを併設したり、催しを開いたりして客を呼び込む所もある。本の紹介や陳列に工夫を凝らす図書館も増えてきた▲川端はストックホルムの授賞式で「美しい日本の私」と題して講演した。その中で道元(どうげん)の歌を引き、日本の美意識を紹介した。<春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷(すず)しかりけり>。読書の秋。日本人が灯火親しむ季節だ。

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