今年2月に亡くなった石牟礼道子さんの評論集「花びら供養」(平凡社から昨年8月出版)に、「知らんちゅうことは、罪ぞ」というエッセーがある。
「高度成長を押しすすめてきたわが国の拝金思想は民意をあやつって、弱者切り捨てが国民性のようになった時代に生まれたのが水俣病である」。人命より企業や国家の利益が優先された水俣病の受難を、石牟礼さんはこう書いた。
高度成長の世が終わった今なら、うなずく人が多いだろう。だが、その受難の原初から他者の痛みをわが痛みとして引き受け、傍観せず行動した作家の目に、近代日本の繁栄はいかにいびつに映っていたことか。エッセーの題名は、患者の言葉からとられた。
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