メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

特集ワイド

差別助長の「入管礼賛」ノー 「外国人摘発」密着番組に非難拡大 背景や制度の不備にこそ目を

「外国人摘発」密着番組に非難拡大

 在留資格のない外国人の摘発現場を取り上げたテレビ番組が相次いで放送されたことに、「外国人差別を助長する」との非難が広がっている。入国管理局側の主張に沿ったようなシーンが多く、当局側の意図と放送の公平性に対する疑問が膨らむ。【井田純】

 「番組を見た夜は明け方近くまで眠れませんでした。ナレーターの『出て行ってもらいます!』という興奮したような口調が頭に残っています」。こう振り返る中東出身の男性(40)は、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容されている。フジテレビの「密着24時! タイキョの瞬間」(6日)を見た時の動揺がよみがえった。

 この番組では、群馬県内に住むベトナム人に対する入管係官の内偵調査に撮影隊が同行。実習先企業から逃げた技能実習生の女性を「資格外活動」で摘発する場面を捉える。別の場面では、インド人が働く工場に入管係官が調査に入る様子を映し出し「出て行ってもらいます!」のナレーションが繰り返された。一方で、外国人が来日に至った背景やオーバーステイの理由などには触れなかった。

 日本在住10年を超えるこの男性は言う。「ビザがない人を捕まえるのは仕方ないかもしれませんが、なぜ凶悪な犯罪者のように伝えるのでしょう。番組を見た日本人は『外国人はこんなに悪いのか』と思ってしまうはず」

 他の収容施設でも番組は見ることができた。支援団体によると、「排除」を強調するかのような内容に多くの被収容者がショックを受けているという。

 「タイキョの瞬間」の放送直後、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では抗議の呼び掛けが広がった。翌日には東京・渋谷駅前で市民約60人が「差別的な放送はやめて」などと声を上げた。9日には、入管問題に取り組む弁護士25人が「視聴者に偏った印象を与え、人種や国籍等を理由とする差別、偏見を助長しかねない」などとする意見書をフジテレビ宛てに送った。

 このような抗議活動が起きたことについてフジテレビはどう受け止めているのか。毎日新聞の取材に対しフジテレビ企業広報室は「決して外国人を差別する意図はございません」などと回答した。

 外国人の摘発場面を取り上げたのはフジテレビだけではない。テレビ東京「密着! ガサ入れ」(10日)▽TBS「ビビット」(9月5日)▽テレビ朝日「スーパーGメン」(9月20日)--なども入管の業務に“密着”した。ある番組のナレーションでは、摘発された外国人について「不法残留者の多くは犯罪組織とつながっている」「日本を食い物にしてきた卑劣な悪の首謀者」「盗んだ金で遊ぶつもりだったのか」と一方的に批判する内容もあった。取材・制作に協力した東京入国管理局(東京都港区)は「現場で奮闘する入国警備官と入国審査官の姿をぜひご覧ください!」などとSNSで発信した。

 似たような番組が集中したことに「入管側が番組制作を持ち掛けたのでは」といった指摘がある。これに対し、法務省入国管理局は「いずれもテレビ局側からの要請に基づいたもの」と説明する。

 だが、外国人の人権問題に取り組む「仮放免者の会」の宮廻(みやさこ)満事務局長は「番組は偏っている」と批判する。「『不法滞在者』、いわゆる非正規滞在者が悪いことをするために来日したかのように描いています。でも、本人は働きたいという意思があり、雇う側のニーズもある。それなのに、なぜ非正規滞在が生まれるのか、どう解決すべきか。メディアの役割はそうした問題提起です。『悪者を捕まえてたたき出す、正義の味方・入管』ではあまりに一方的で、外国人の人権を無視しています」

 宮廻さんは、勤務先を変える自由が認められていない技能実習制度の構造も問題視する。「日本人と違う契約だから、雇う側に『外国人には何をしてもいい』という考えが生まれる。約束と違う待遇に耐えかねて帰国しても来日する際に作った借金だけが残るが、日本にとどまれば働き口はある。逃げる人を責められるでしょうか」

 多くの実習生の労働環境は劣悪だ。厚生労働省が昨年行った調査では、実習生を受け入れている事業所(調査対象・5966事業所)の約7割で違法残業や賃金未払いなどの法令違反が見つかり、違反事業所数は4年連続で過去最多を更新した。「入管に捕まって強制退去処分となっても、借金を返せるほど稼げていない人は帰るに帰れない。そうした事情や制度の不備にこそ目を向けるべきではないですか」と宮廻さん。

 収容施設での外国人の待遇もあまり知られていない。「タイキョの瞬間」では「適切な処遇を行っている」という入管側の言い分を伝えたが、実際には施設内で自殺・自傷が続き、多くの病死者を生む医療体制の問題が指摘されている。

 東京入管に収容されている東南アジア出身の男性(39)は、番組が伝えた「訪問診療も日替わりで行われ、収容者の体調管理が行われている」との内容が「実態と全く違う」と訴える。血圧値はしばしば200を超え、頭、胸の痛みが続くが、「診察を申請しても2週間ぐらいはそのまま。申請が取り消される人もいます」と話す。母国では両親も迫害を受けているというこの男性は難民認定を求めているが、「係官には『あなたの国に問題があっても日本には関係ない』と言われるだけ」と嘆く。

 前述の意見書に名を連ねた駒井知会(ちえ)弁護士は、視察した英国の制度と比較して「日本では、被収容者や家族の不安を増幅させる制度運用になっている」と指摘する。

 なぜか? 日本では、被収容者が仮放免を申請した場合、審査過程は本人にも弁護士にも分からず、不許可の場合も具体的理由は一切示されない。「英国では収容施設から本人がファクスで保釈を裁判所に申請でき、数日中に公開の法廷で審理がある。この場で、国側が収容を続ける必要性を裁判官に示さなければなりません」

 「密着! ガサ入れ」では、入管係官が外国人の勤め先や住居を家宅捜索し、証拠を差し押さえるために裁判所から令状を受ける場面があった。ところが、身柄拘束のために裁判所に逮捕状を請求するシーンはない。オーバーステイの外国人拘束に必要なのは入管の審査官が出す収容令書だけで、収容期間も入管が審査・判断できる仕組みだからだ。ビザが切れた外国人の人権は「軽い扱い」をされていると言わざるを得ない。駒井さんは「収容の判断過程に制度として司法審査が組み込まれていないのは大きな問題です」と話す。

 24日に召集される臨時国会では、外国人労働者受け入れ拡大に向けた入管法改正案が審議される。新たに来日する50万人の人権をどう考えているのか。

 再び冒頭の中東出身の男性。面会でこう心境を明かした。「私には心から信用する日本の友人がたくさんいます。本当の日本はこの番組のような社会じゃないと思う。今の入管のシステムの方が日本にふさわしくないんだ、と」

 取材に応じてくれた外国人たちの多くは、日本の社会とメディアへの希望を抱いている。仮放免中の南西アジア出身の男性(49)も力を込めて言う。「次は、私たちの話を聞いて、今回と『逆バージョン』の番組を作ってほしい」

おすすめ記事

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 香港デモ 白シャツ集団、参加者襲撃 反対派と逆のカラー
  2. 加藤浩次さん、大崎・岡本両氏退陣なければ「吉本やめる」
  3. 京アニ「社員の師匠」木上さん、なお不明 「キャラに生命」「あの優しい人が…」
  4. 「冗談だった」「圧力のつもりない」…吉本社長会見、古い体質露呈
  5. 清水圭、吉本社長・岡本氏に恫喝された過去告白「話を聞かずいきなり…私の時と全く同じ」(スポニチ)

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです