メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

麗しの島から

開通日の「港珠澳大橋」を渡る

 中国・広東省珠海と香港、マカオを結ぶ世界最長の海上大橋「港珠澳大橋」(全長55キロ)が完成した。一般向けに開通した24日、実際に大橋をシャトルバスで往復し、利用客を取材した。

マカオまでは「フェリーの方が速いなあ」

 香港中心部のホテルを早朝に出発し、列車を乗り継いで郊外にある香港国際空港に向かった。大橋に向かうバス停が空港そばにあるためだ。開通初日なので空港のバス停前は長蛇の列かと思いきや、意外とすいていた。

珠海やマカオ行きのチケットを買う人たち=香港国際空港沖の人工島で2018年10月24日、福岡静哉撮影

 まずは沖合の人工島に整備された出入境施設に向かう。香港、マカオは中国の一部だが、高度な自治に基づく「1国2制度」が認められており、法制度などが異なる。このため香港からマカオや珠海に向かう大橋では、それぞれの境界で出入境の手続きが必要なためだ。

 手続きを終え、マカオ行きのチケット(65香港ドル=約930円)を購入。ようやくシャトルバスに乗り込めた。バスは24時間運行で日中が5~15分に1本、深夜~未明も15~30分に1本と頻繁に運行している。

 香港中心部からマカオは高速フェリーでも約1時間で行ける。フェリーの価格は170香港ドル(約2430円)前後だが、バスで知り合った香港在住の李卓明さん(42)は「便利になると思って乗ってみたが、中心部から空港まで行くのに時間がかかる。フェリーの方が高いけど速いなあ」と苦笑い。私も香港中心部を出てシャトルバスに乗るまでに1時間半以上かかった。

珠海から香港に向かうシャトルバス内から臨む港珠澳大橋=港珠澳大橋で2018年10月24日、福岡静哉撮影

大蛇のような巨大大橋

 バスが出発した。まるで水上をはう大蛇のように巨大な大橋が長く長く伸びている。長すぎて先の部分はかすんで見通せないほどだ。橋の道路表示などは、香港で使われる旧字体に似た「繁体字」ではなく、中国大陸で使われる簡略式の「簡体字」。香港やマカオは左側通行だが、橋上は中国本土式の右側通行が採用されている。道路にはバス以外の車両をほとんど見かけない。自家用車で大橋の通行許可を得る条件が厳しく、また車両数が制限されているためだ。一般客はバスでの通行がメーンとなる。

 大橋は終点近くでマカオ、珠海に分岐し、手元の時計で出発から42分後、マカオ市街の東側にある人工島に到着した。バス停では午前9時に出発した始発バスも停車しており、観光客が記念撮影をしていた。中国重慶市から来た主婦、甘学鋒さん(53)は「空港に着いてからスムーズにバスに乗れ、とても速かった。香港中心部まで移動してフェリーに乗ると、とても時間がかかる」と喜んでいた。

 私が香港国際空港のバス停を出てからの所要時間は、バスの待ち時間や出入境手続きを含め、マカオに着くまで70分だった。確かに空港から直接マカオに向かうには便利だ。だがマカオの入り口となるバス停から中心部までは、待ち時間を入れると約40分かかった。

 マカオのタクシー運転手、徐偉坤さん(56)は「香港中心部からマカオ中心部に行くにはフェリーの方が速い。船酔いが苦手な人や価格を重視する人は大橋がお勧め。選択肢が増えたということだ」と言う。

 私はマカオから陸路で中国広東省・珠海市に入り、今度は珠海側から香港に向かった。同様にまず出入境施設がある人工島にバスで向かい、そこで香港行きのバスに乗り換える。香港行きのバスチケットは58人民元(約940円)。バスの隣に座った珠海に住む李さん(45)は「珠海から香港行きのフェリーは本数が少なく、しかも1時間以上かかる。車で陸路を行くと3時間以上は必要だ。本当に便利になった。『大湾区』はこれから発展する。非常に誇らしい」と興奮した様子で話した。

開通日の始発バスの前で記念撮影する乗客=マカオ側の人工島で2018年10月24日、福岡静哉撮影

「大湾区」構想の中核施設

 「大湾区」とは、中国政府が広東省の9市と香港、マカオを巨大な経済圏に見立てて一体的な地域発展を目指す「広東・香港・マカオビッグベイエリア(大湾区)」構想のこと。大橋はその中核施設だ。大湾区は先端産業が集積する深セン市や自動車産業で知られる広州市などを擁し、GDPに相当する2017年の域内総生産は10兆2200億元(約166兆4800億円)。中国全体の約13%を占める。人口は6700万人を超える。中国政府は、米国のサンフランシスコやニューヨーク、東京を上回る経済圏とすることを目指す。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の海上ルートの起点としての役割も担う。

 港珠澳大橋は2009年に着工し、総工費は1000億元(約1兆6200億円)超。難工事が続き、関連工事も含めて少なくとも9人が事故死し、多数が負傷した。

 広東省珠海市で23日にあった開通式には習近平国家主席が自ら出席し、開通を宣言した。習氏はその後、車で橋を渡り、「港珠澳大橋の建設で、我が国の総合的な国力、自主建造能力が体現された」と強調した。

 今年で香港が英国から返還されて21年、マカオがポルトガルから返還されて19年。香港では、民主的な選挙制度の実現を求めた「雨傘運動」(2014年)が起きるなど中国政府への反発は根強く、対中感情は複雑だ。中国・珠海側の施設内の各所には、こんな標語が掲げられていた。「香港、マカオが国家発展の大局にとけ込むことを支持する」

 大橋の開通で以前より利便性が向上した部分はあるが、巨額の費用に見合うのかはやや疑問だ。中国政府にとってはむしろ、巨大橋の建設によって圧倒的な国力を世界に誇示すると同時に、香港とマカオを中国という国家の中へ名実ともに「とけ込ませる」意義が大きいのだと私は感じた。【福岡静哉】

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 衆院内閣委 桜田五輪相「判断力は抜群」「世界で有名に」
  2. 奈良女児殺害14年 父親が手記「私の背中そっと支える」
  3. 慰安婦財団解散 日本政府、強く反発も…漂う“韓国疲れ”
  4. 社説 桜田五輪担当相の迷走 滞貨一掃人事の重いツケ
  5. 夜景都市 新三大夜景、神戸が4位に、北九州市に抜かれる

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです