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東南アジア探訪記

戦闘から1年 破壊された街、なお「IS」の文字…比ミンダナオ・マラウイ

「グラウンド・ゼロ」と呼ばれる戦闘が最も激しかった地区では過激派組織と国軍による銃撃や爆撃の爪痕が残る=ミンダナオ島中部マラウイで2018年10月16日午後0時32分、武内彩撮影
過激派組織と国軍の戦闘で廃虚と化したマラウイの市街地=ミンダナオ島中部で2018年10月14日午後3時9分、武内彩撮影

 フィリピン南部ミンダナオ島のマラウイで、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓う地元組織と国軍による戦闘が終結してから10月23日で1年が過ぎた。島全域に出された戒厳令は今年末まで続き、マラウイでは国軍による安全確認の作業が続く。約1万3300世帯が現在も避難生活を強いられ、街は再興とはほど遠い。戦闘終結から1年を前に戦闘が最も激しかった「グラウンド・ゼロ」と呼ばれる地域に入った。

 国民の9割がキリスト教徒のフィリピンで唯一、「イスラム都市」を名乗るマラウイで、戦闘が始まったのは2017年5月23日。潜伏していた過激派組織の幹部を国軍が急襲したところ銃撃戦となった。市街戦は約5カ月にわたって続き、過激派組織によって「人間の盾」とされた市民を含めて1000人以上が死亡した。

「グラウンド・ゼロ」にある民家で、過激派組織のメンバーが戦闘の際に開けた壁の穴=ミンダナオ島中部マラウイで2018年10月16日午後0時26分、武内彩撮影

 グラウンド・ゼロに指定されているのは、市内96地区のうち24の地区だ。入るには銃を持った軍人が鋭い視線を向けてくるチェックポイントを通らなければならない。許可がなければ地区内で停車することもできず、あちこちで国軍の四輪駆動車を見かけた。国軍の空爆による不発弾が地下深くに埋まっている可能性もあり、安全確認には時間がかかるのだという。

「グラウンド・ゼロ」に入る橋のたもとでは国軍による通行車両のチェックが続き、許可なしでは停車することもできない=ミンダナオ島中部マラウイで2018年10月14日午後3時7分、武内彩撮影

 地区内の建物には過激派の戦闘員が目立たずに建物の間を行き来できるように開けた大きな穴が目立ち、空爆で破壊された建物も多い。まるで廃虚のようだった。屋根や壁にある無数の銃弾の跡が戦闘の激しさを訴えてくる。人の通りが絶えた道路には植物が生い茂り、どこまで道路なのか分からないほどだ。イスラム教徒にとって大事なモスクですら、銃弾を受けて無残な姿になっていた。ひとけのない廃虚の街は異様な雰囲気で、崩れかけの壁や門に描かれた「IS」の文字にどきりとした。

長引く避難生活

破壊された住宅の壁に描かれた「ISIS」の文字=ミンダナオ島中部マラウイで2018年10月16日午後0時半ごろ、武内彩撮影

 マラウイ周辺には、公式に登録された避難所が22カ所ある。韓国などの支援で建設されたソゴンソガン地区にある仮設住宅群もその一つだ。約25平方メートルの居室の隅にはトイレや台所があり、貯水タンクも備えられている。地区内に約1000戸あり、今年1月に入居が始まった。簡易の雑貨店やトライシクル(三輪タクシー)の乗り場もあって、ちょっとした町という感じだ。しかし住民の仕事は限られ、ほとんどの人が食料を含めて政府や支援団体に頼っている。

 国家住宅庁の担当者、ポール・デイビッド・チャン氏によると、「入居して6カ月は電気代も無料だが、それ以降は自己負担になる」という。政府と地主との賃貸契約が切れるため、5年後には退去しなければならない。娘4人と暮らすスバイダ・コマドゥグさん(59)は「仮設住宅に入れてひとまず安心したけれど、その先は分からない。自宅を再建できるとは思えない」と不安そうに話した。

 テント村も点在する。そのうち「サリマノク・テントシティー」には、約200のテントが並び、300世帯以上が暮らす。200世帯以上で八つのトイレを使い、水浴び場や貯水タンクも共用だ。仮設住宅の建設が追い付かず、移るめどは立っていないという。ほかに公共施設の軒下や知人宅などに間借りしている避難民も多い。

サリマノク・テントシティーに建ち並ぶテント。雨が降ればテント内もぬかるむ=ミンダナオ島中部マラウイで2018年10月17日午後1時35分、武内彩撮影

必要な支援とは

 避難所では、大人が所在なさげに過ごす様子をよく見かけた。最近は政府からの食料支援も途絶えがちだといい、不安や不満、不信感がたまっているのを感じた。住民にどのような支援が必要かと聞くと、多くが「現金収入を得るために仕事をしたいが、元手がない」と訴えた。トライシクルの運転手だった男性は、新たに三輪車を借りる資金が必要だと訴えた。

 それでも、自立に向けて動き出す人も出てきた。サリマノク・テントシティーにあるアスニア・サンディマンさん(24)のテントからは、昼夜問わずにミシンの音が聞こえてくる。今年4月から家族とテントで暮らし始め、政府から支給された1万ペソ(約2万円)を元手に婦人服の仕立屋を始めた。買えるだけの生地や糸を購入し、ミシンは海外NGOからの支援という。

公共のバスケットボール場の隅にビニールシートや布などで住居スペースを作り避難生活を送る住民ら=ミンダナオ島中部マラウイ近郊で2018年10月17日午前10時45分、武内彩撮影

 裁縫やデザインを学んだことはないが、グラウンド・ゼロにあった自宅で母親が使っていたのを見て覚えていた。サンディマンさんは「自分でお金を稼ぎたい。支援に頼り切りになるのは嫌だし、いつかはここから出ないといけないから」と前向きだ。テントの半分を作業場兼店舗にして完成した洋服を並べ、最近はスマートフォンを使いオンラインでの受注も始めた。

 グラウンド・ゼロの廃虚を見れば、住民が元の生活に戻るのが簡単でないことは分かる。ドゥテルテ大統領の肝いりでできた特別チームは今年5月末に復興計画を発表したが、元の土地に帰還できるのかといった住民が求める情報は含まれなかった。マラウイでの戦闘は終結したが、イスラム過激主義者が掃討されたわけではなく、一時的に鳴りを潜めただけだ。住民の中で中央政府への不満や疎外感が高まれば、過激派の甘言に共鳴する者が出てくるかもしれない。復興の過程を新たな火種にしてはいけない。【武内彩】

武内彩

ジャカルタ支局記者。1980年和歌山県生まれ。2005年に毎日新聞に入社、神戸支局を振り出しに大阪社会部の在籍が長かった。東南アジア好きは学生時代のフィリピン留学以来。担当地域はインドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール、オーストラリアなど。

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