来年10月に予定する消費税率10%への引き上げを巡り、政府が景気対策の検討を本格化させている。安倍晋三首相は先週の所信表明演説で「あらゆる施策を総動員する」と述べ、大型対策にする方針を強調した。
景気への目配りは必要だ。だが増税の目的は高齢化で増え続ける社会保障費の財源を確保し、借金のつけ回しに歯止めをかけることだ。
首相は既に増税の半分を借金返済ではなく、教育無償化などに充てると決めている。さらに景気対策の規模を膨らませると、増税の目的がますます薄れるばかりである。
まず問題なのは、買い物の際に現金を使わずクレジットカードなどで払う「キャッシュレス決済」を行った場合、ポイントを還元する案だ。
対象は中小の小売店が売る商品とし、8%の軽減税率が適用される食品も含めるという。還元するのは増税幅と同じ2%分なので食品の税率は実質6%と減税になる。これでは何のための増税か分からない。
店がカード会社に払う手数料の引き下げも促す方針だ。地方の商店街にもキャッシュレス決済を広げポイント還元を増やしたいのだろう。
だが手数料は店の売上高などを踏まえてカード会社が決めるものだ。企業の経営判断に干渉してまで景気押し上げを図るのは筋が通らない。
政府は訪日外国人がよく使うキャッシュレス決済を全国的に拡大して観光振興も図ろうとしているが、景気対策とは性質が全く異なる。強引に一緒にするから無理が生じる。
もう一つ懸念されるのは、低所得者向けに、購入額以上の買い物ができるプレミアム付き商品券の発行を検討していることである。
2014年の消費増税後にも行ったが、効果は乏しかった。非効率な財政出動を繰り返すのだろうか。
首相は所信表明演説で「少子高齢化に真正面から立ち向かい、子や孫の世代のため誇りある日本を創り上げよう」と語った。ならば1000兆円超の借金を抱える財政を再建し負担の先送りをやめる責任がある。
今国会は、首相が閣議で増税を予定通り来年行うと表明して初めての国会だ。所信表明演説で目的を丁寧に説明し、国民に理解を求める必要があったのに言及しなかった。今後の質疑できちんと説明すべきだ。