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私だけの東京・2020に語り継ぐ

歌手・渥美二郎さん 懐深い北千住の優しさ

 もいだ柿を握り、「うわーっ」と叫びながら必死に走りました。小学1、2年の頃です。近所の家の木にぶら下がっていた実が「おいしそうだな」と思ってとったら、突然、その家のおじさんがガラッと戸を開け、「こらーっ!」と追いかけて来た。おじさんの足はゲタだから、逃げ切れると思ったけど、当時の大人は体力があったんですかね、どんどん迫ってくる。結局、つかまっちゃって、ガツンとゲンコツ。「人の家の柿をとったら、泥棒だぞ!」と、ものすごく怒られました。でも最後に、おじさんはその柿を僕の手に握らせ、こう言ったんです。「いいか、これはお前にやる。欲しかったら、いつでも俺に言ってこい。でも、黙ってとるのはいけないことだ」

 もう60年近くたつのに、あの時の光景は目の前で起きているように鮮明です。ゲンコツの痛みまで覚えている。僕が生まれた足立区の北千住は、大人が遠慮なく他人の家の子をしかり、正しいことは何かを教えてくれた。そこで育ったから、絶対にやってはいけないこと、人の痛みを感じることが身についたんじゃないかと思うんです。

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