連載

私だけの東京・2020に語り継ぐ

著名人へのインタビューを通じて、東京の魅力を再発見します。

連載一覧

私だけの東京・2020に語り継ぐ

歌手・渥美二郎さん 懐深い北千住の優しさ

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷

 もいだ柿を握り、「うわーっ」と叫びながら必死に走りました。小学1、2年の頃です。近所の家の木にぶら下がっていた実が「おいしそうだな」と思ってとったら、突然、その家のおじさんがガラッと戸を開け、「こらーっ!」と追いかけて来た。おじさんの足はゲタだから、逃げ切れると思ったけど、当時の大人は体力があったんですかね、どんどん迫ってくる。結局、つかまっちゃって、ガツンとゲンコツ。「人の家の柿をとったら、泥棒だぞ!」と、ものすごく怒られました。でも最後に、おじさんはその柿を僕の手に握らせ、こう言ったんです。「いいか、これはお前にやる。欲しかったら、いつでも俺に言ってこい。でも、黙ってとるのはいけないことだ」

 もう60年近くたつのに、あの時の光景は目の前で起きているように鮮明です。ゲンコツの痛みまで覚えている。僕が生まれた足立区の北千住は、大人が遠慮なく他人の家の子をしかり、正しいことは何かを教えてくれた。そこで育ったから、絶対にやってはいけないこと、人の痛みを感じることが身についたんじゃないかと思うんです。

この記事は有料記事です。

残り1334文字(全文1789文字)

あわせて読みたい

マイページでフォローする

この記事の特集・連載
すべて見る

ニュース特集