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防弾少年団(BTS)

「原爆Tシャツ問題」の深層

防弾少年団(BTS)の番組出演を見送ったことを伝える「ミュージックステーション」のホームページ=テレビ朝日のウェブサイトから

 テレビ朝日は9日放送の音楽番組「ミュージックステーション」に出演予定だった韓国の男性7人組グループ「防弾少年団(BTS)」の出演を、メンバーの一人が原爆の写真がプリントされたTシャツを着ていたことを理由に見送ると発表した。10月中旬から右派系の著名人らがツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)でこの問題を取り上げ、BTSの番組出演に対する批判を続けてきた。「原爆Tシャツ」の着用は昨年の出来事とみられるが、それを批判するツイートは、10月末の韓国最高裁による韓国人元徴用工訴訟判決などをきっかけに、最近になって急激に拡散されていた。

【大村健一/統合デジタル取材センター】

 テレビ朝日は8日夜、ミュージックステーションの番組ホームページで「Tシャツのデザインが波紋を呼んでいると一部で報道されており、着用の意図をお尋ねするなど、所属レコード会社と協議を進めてまいりましたが、当社として総合的に判断した結果、残念ながら今回はご出演を見送ることとなりました」と説明し、謝罪した。BTS側も日本向け公式ファンクラブのサイトで「楽しみにしていたファンの皆様には残念な結果となり、おわび申し上げます」と謝罪し、「今後もよりいい音楽とステージで皆様とお会いできるよう努めてまいります」とコメントした。

「ミュージックステーション」に出演しないことを伝える防弾少年団(BTS)の日本公式ファンクラブの謝罪文=BTSの日本公式ファンクラブのホームページから

拡散されたのは昨年の番組の一部か

 SNSで拡散された画像は昨年7月、有料動画サイトで公開された番組のワンシーンを画像として抜き出したものとみられる。メンバー全員でハワイ観光を楽しむ内容で、メンバーの一人のジミンさんが浜辺で靴飛ばしをして遊んでいる最中、羽織っていた上着を脱いだ数秒間に長袖の「原爆Tシャツ」が映った。他にも、このTシャツを着ていると思われる画像は何枚かあったが、いずれも昨年撮影されたと思われるものだった。

 問題となったTシャツは韓国の「ourhistory」というブランドの商品とみられ、背中の部分に 「PATORIOTISM(愛国心)」「LIBERATION (解放)」「KOREA(韓国)」 などの文字とともに、原爆のキノコ雲の写真と、日本の植民地支配からの解放を祝って万歳する人々の写真がプリントされている。

 番組配信当初はさほど話題になっていなかった。

韓国の男性音楽グループ「防弾少年団(BTS)」(聯合=共同)

日韓関係の冷却で10月に一気に拡散

 このTシャツの画像が日本で一気に拡散されたのは今年10月中旬以降だ。

 上旬に韓国であった国際観艦式の際、韓国側が旭日旗の掲揚自粛を求めて海上自衛隊が参加を取りやめたり、下旬には韓国最高裁が韓国人元徴用工に強制労働をさせたとして新日鉄住金に賠償を命じたりするなど、日韓関係を冷え込ませる出来事が相次いだ。

 加えて、BTSの「NHK紅白歌合戦」初出場を予想する記事が出始めた時期でもあり、「反日グループを出演させるな」といった批判がSNSで急速に拡散した。

 今年10月にフランスで開催されたイベントに出演した際も「原爆Tシャツ」を着ていたという情報もネット上の「まとめサイト」などにあるが、根拠は示されておらず、真偽は不明だ。

 同時に広まったのは「原爆Tシャツ」だけではない。BTSがデビューした直後の2013年8月15日、終戦で韓国が日本の植民地支配から解放されたことを記念する「光復節」の日に、リーダーのRMさんが「歴史を忘れた民族に未来はない」と投稿したことも「反日的」などと批判された。

右派の著名人がテレビ朝日を批判

 その後、これらの情報を基に、右派系の著名人がツイッターでBTS批判を発信。作家の百田尚樹氏は今月5日に「原爆被災者をおちょくるようなパフォーマンスをするバカにももちろん腹が立つが、そんなバカを出演させるテレビ局やプロデューサーにも猛烈に腹が立つ。 貴様たちは日本人としての誇りがないのか!と言いたい」などとツイート。数千件リツイート(拡散)された。

 美容外科医の高須克弥氏も20日に「これは許すべきではない。放置した韓国政府に謝罪を要求すべきだ」などとツイート。1万件以上リツイートされた。

社会へのメッセージも熱心に発信してきたBTS

 BTSは13年に韓国で、14年に日本デビューした。BTSは元々韓国語の「防(BANG)」「弾(TAN)」「少年団(SONYEONDAN)」の頭文字を取ったもので、「10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自身たちの音楽を守りぬく」との思いに由来している。

 アイドル的なルックスだけでなく歌唱やラップ、ダンスに秀で、メンバーが作詞、作曲した曲も多い。昨年12月に発売したシングルは、海外アーティストとして初めて発売初週売り上げが30万枚を突破した(オリコン調べ)。米国の音楽ランキング「ビルボード200」でも今年、アルバムが5月に韓国の歌手として初の1位、8月の次作でも続けて1位を獲得するなど、アジアにとどまらない活躍をしてきた。

 また、社会問題へのメッセージを積極的に発信しているのも特徴だ。9月に国連本部であった国連児童基金(ユニセフ)の会合で、世界の若者たちに向けてメンバーが「LOVE MYSELF(自分を愛そう)」をテーマに英語でスピーチした。

それでもBTSの勢いは止まらず

 日本ではBTSの人気は女子中高生を中心に根強い。7日に発売されたシングルCD「FAKE LOVE/Airplane pt.2」は、初日のオリコンデイリーチャートで売上枚数の目安となる数値「ポイント」でグループ史上最多となる約32万7000点を得て、3万点弱だった2位を大きく引き離してトップに立った。

 13日から来年2月にかけて東京、大阪、名古屋、福岡の4都市のドーム球場で9公演が予定されているが、チケットは売り切れている。SNSには「残念だけどこれまでどおり応援する」「(番組を)観覧に行く予定だった人の気持ちを思うと辛い」など、「ARMY(アーミー)」と呼ばれるBTSのファンの声も多く投稿されている。

「文化に罪はない」

 日韓の文化交流に詳しい一橋大学大学院法学研究科の権容(夾の人がそれぞれ百)(クォン・ヨンソク)准教授によると、Tシャツはファンからプレゼントされた可能性が高いといい、韓国国内からも「韓国人の犠牲者も多かった原爆のTシャツを着たのは軽率ではないか」と指摘されていた。メンバーが政治的な意図を持ってTシャツを着た様子はないという。

 「政治や歴史での対立があっても、文化やそれを好むファンに罪はない。政文(政治と文化)分離の原則は大切です。日韓関係は冷え込んだように見える中で、テレビ局が自主規制のような形で出演を拒んだのは残念です」とため息をつく。

 一方、元NHK記者で、韓国の政治外交が専門の奥薗秀樹・静岡県立大大学院国際関係学研究科准教授は「Tシャツを着た当人に日本人の心を傷つけるつもりはなかったでしょうが、世界的スターとしてはあまりに無理解だと言わざるを得ません。『看板番組の一つが原爆を肯定するアーティストを出すのか』という批判の殺到が予想され、テレビ朝日の決定はやむを得なかったと思う」と話す。

初来日したペ・ヨンジュンさん(中央)を熱狂的に出迎える女性ファンたち=東京・羽田空港で2004年4月3日午後1時半、手塚耕一郎撮影

政治のあおりを受け続けた韓流ブーム

 1998年に金大中大統領(当時)が日本の大衆文化を韓国内で段階的に解放し、両国の文化交流は進んだ。以降、日本で3回あったとされる「韓流ブーム」は、日韓の政治問題にたびたび左右された。

 第1次ブームの始まりはペ・ヨンジュンさん主演の韓国ドラマ「冬のソナタ」が中高年の女性を中心に大ヒットした04年ごろ。ブームを受けて韓国語教室に通い始めた人々の様子なども、たびたびメディアで取り上げられた。

 一方で、従軍慰安婦問題や島根県の竹島をめぐる日韓政府間の対立もたびたび起こり、05年ごろから「嫌韓本」が相次いで出版されるなど、日本人の反韓感情も顕在化するようになった。

第2次ブームは大統領の「竹島上陸」で終息?

 第2次ブームは「東方神起」「少女時代」「KARA(カラ)」といったK-POPグループの台頭で、10年ごろから始まったとされる。

竹島に上陸し、島を見渡す李明博大統領(手前)=2012年8月10日、朝鮮日報提供

 しかし、12年8月の李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)による竹島上陸、天皇陛下に対する韓国独立運動家への謝罪要求などをきっかけに、日本人の対韓感情は悪化。同年の内閣府の「外交に関する世論調査」では、「韓国に親しみを感じない」と答える人の割合が前年から23・7ポイント増えて59%に達した。

 12年以降、5年続けて紅白歌合戦にK-POPグループは選出されず、韓流ブームは低迷期を迎える。

昨年からの第3次ブームは女子中高生が中心

 低迷期でも、男性グループ「BIGBANG(ビッグバン)」が東京ドームなどの大規模な会場でコンサートを行うなど、韓流は一定の固定ファンをつかんでいた。

 そして第3次ブームは、BTSや、昨年の紅白歌合戦に初出場した日本、韓国、台湾のメンバーによるガールズユニット「TWICE(トゥワイス)」などの人気に加え、韓国の化粧品や「チーズタッカルビ」などのグルメもけん引する形で、昨年ごろに始まった。特に女子中高生を中心とする若い世代に受け入れられた。

店頭で韓国コスメを試す中学生たち=東京都渋谷区で7月14日、斎藤義彦撮影

「しばらく韓国のことはいい」と話した学生

 静岡県立大大学院の奥薗准教授は最近、教え子の女子学生が「しばらく韓国のことはいい。もう、おなかいっぱい」と話したことにショックを受けた。「徴用工判決で、韓国に国家間の約束を国内事情で覆す身勝手さを感じ、脱力感や疲労感を覚えたのだと思う」と奥薗さんはおもんぱかる。

 奥薗准教授は「私の身近にいる学生は三つのタイプに分けられる」と話す。一つはK-POPなど韓国文化が好きで何があっても好感が揺らがない層。二つ目が最も多く、韓国に特別に深い関心はないものの、自然とK-POPなどになじんできた層。三つ目は、韓国に対して明確に否定的な態度を示す層という。「おなかいっぱい」と話した学生は、二つ目のタイプだったという。

第3次ブームはどうなるのか

 奥薗准教授は、日韓の文化的な交流は「政治で摩擦が起こっても拡大していく」と見込んでおり「関係を破綻させないためにも大衆文化を通じた交流は欠かせない」とも考えている。「だからこそ『韓国にはもうついていけない』と思う若い世代が現れたことは深刻に考えるべきです。そうした考えはボディーブローのように長く影響し、学生が親になったときに子供たちにも伝わっていく」

 一方、一橋大大学院の権准教授は、こう話す。

 「BTSは既存のマスメディアよりも、SNSや動画サイトなど新しいものを駆使して人気を集めてきたので、若いファンへの影響は少ないでしょう。いがみあうのではなく、韓国の若者は『なぜ日本ではこれだけ原爆がセンシティブな問題なのか』、日本の若者は『なぜこのようなTシャツが韓国で作られたのか』について互いに思いをはせる機会になってくれれれば、本当はいいのですが……」

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