オピニオン

「災害に強いまちづくり」で重要なのは、息長く、継続的に取り組むこと 工学部 土木工学科 教授
梶田 佳孝

2018年12月3日掲出

 各地で自然災害が頻発した2018年。改めて防災・減災への意識を高め、“災害に強いまちづくり”に取り組むことが急務だとの認識が高まっている。かねてから安全安心事業の研究を推進し、地域住民の防災意識向上に努めてきた梶田佳孝教授に、災害に強いまちづくりには何が必要か聞いた。【聞き手・中根正義】

 

 

 ──先生が「安心安全事業」を研究、推進された「To-Collabo(トコラボ)プログラム」は、文部科学省の支援によるCOC事業(注1)の採択を受けて行われ、2017年度まで5年間の支援を受けました。18年度からは大学独自の発展型として、「フラグシップ型広域連携事業」を立ち上げられました。まず「To-Collaboプログラム」の内容と5年間の成果についてお話ください。

 「To-Collaboプログラム」は研究成果をどう地域に還元するかと同時に、学生をプログラムに参加させることが目的でした。私の専門は建築土木分野なので、初めは津波浸水及び避難行動のシミュレーションを行って、その成果を地域に還元できればと考えました。

 現在は都市計画やまちづくりではいかにIT技術を取り込んで見える化していくかが課題の一つです。2年目以降は、情報理工学部の内田理教授などと連携しながら地元に還元できるような組み合わせがかなりできました。さらに社会心理や数学、情報通信などを専門とするの教員と協力して地域の防災活動の支援をしていくことにつながっていったのです。その一つが「防災マップ」です。同時に新しいIT技術を活用した防災教育を展開、各自治体の特徴に基づいて提案とワークショップを行っていきました。

 

 ──取り組みは、まず神奈川県・秦野市大根地区から始まったそうですね。

 もともとメンバーの一人である崔一英先生が、防犯の取り組みを行っていた大根地区と防災訓練などへの参加を促す広報活動を共同で取り組むなどで接点があったのです。本学と連携を図って連絡会を開いたりしていたので、その一環で防災に関するシンポジウムをやろうということになったのです。

 

 ──地域のニーズを上手く拾い上げた方がいらっしゃって、それが上手く大学内で展開できたと。高校も絡んだということですが……。

 秦野高校の校長先生が熱心な方で、東日本大震災の被災地へのツアーなども行っていたので、高校生にシンポジウムの一環で発表してもらい、それがきっかけで、SNSを使った防災教育を行うようになったのです。地域の自治会連合会会長や高校の校長先生などがキーパーソンとなってくれたおかげで取り組みが上手く進みました。

 また、関東大震災の時に大きな土砂崩れがあった大山地区では、避難場所までが遠く困っているというので、地域の防災担当部署と連携しながら今年の3月にワークショップで防災マップをつくり、防災訓練の時にマップを配って意識高揚を図ってもらいました。

 

 ──東日本大震災でも、過去の津波被害の話がうまく継承されている地域と、新住民が多くて伝わっていない地域があって、それによって亡くなる人が出た地域とそうでない地域が出るなど、被害に差が出ました。

 大山地区は高齢者で過去のことをよく覚えている人もいて、うまく継承されていたようです。これには本学の学生が各グループに1人、コーディネーターというか、話を聞く役などの補助作業に消防署などの関係者の皆さんと一緒になって、さきほど言ったワークショップで地域の方と話し合うことができました。おかげさまで、学生らも非常に勉強になりました。

 

 ──今回のプログラムでは、学生が地域住民のなかに入り込み、共に防災について考える「パブリックアチーブメント(PA)型教育」を柱の一つとされていたわけですが、5年間活動したなかで、学生がどんな問題意識を持ったか、具体例を教えてください。

 やはり地域住民に地元のことについて話を聞くことで、初めて気付くことが沢山あったようです。地元の人からは昔の話が出てくるので、過去の教訓をどう今に反映すべきかについても話題になりました。学生にとっては新鮮だったと思いますね。年配の方も若い人と話ができて良かったという人も多かったです。

 これまでコミュニケーション力にあまり長けていなかった学生が、地元住民とのワークショップなどの参加の経験を通じて、自らの考えや意見を主張できるようになったようです。その後の進路で、防災関連のコンサルティングの仕事に進んだ学生もいれば、公務員の道に進んで、まちづくりのコーディネートに携わっている学生もいます。就職活動の際も、目的を持って自分の経験を話せたようです。

 

 ──「防災マップづくり」と「SNSの活用」のそれぞれ詳細を教えてください。

 防災マップづくりでは地域をより知ろうという目的で、危険なところ、役に立つところ、避難場所などを街歩きしながら見てもらいました。今年あった大阪の地震で小学生がブロック塀が倒れて亡くなったように、ふだんの暮らしでは、危険箇所をほとんど意識していません。それらを再確認するために、今回は小学生も参加してくれ、子どもの目線で見た場合はどうかという点も含めて意義のある取り組みになりました。

 SNSについては、内田先生が開発した災害情報共有システムを使って危険な場所をTwitterで投稿し、マップで見るという作業を行いました。防災マップを電子化することて、中高生が楽しみながら防災意識を高めてくれたようです。

 

 ──フラグシップ型広域連携事業という大学独自の展開に、これまでの成果をどう生かしていきたいですか。

 これまでは各市町村に我々がアプローチしていったわけですが、それぞれの抱えている災害の種類や、コミュニティの結びつきの強さ、あるいは自治会の防災意識の高さなどには地域間格差があります。災害は市町村の範囲をこえて広域にわたることが多く、今後は大学が主体となってまず市境の自治会同士の連携などから始め、先進的に対策が進んでいる事例を他地域にも応用するなど、広域的に、地域全体に広げるような活動にしていきたいと考えています。

 災害のタイプはさまざまなので、防災プログラムも多様な対応が望まれています。大学側としても、住民の防災や減災への意識を高めながら、被災時に被災者をどう受け入れるか、大学としての地域貢献を考えなければいけませんね。

 

 ──東海大学は北海道にキャンパスもあり、今年9月に発生した北海道胆振東部地震の直後には、真駒内でワークショップの取り組みをされました。

 ワークショップについては、今までやってきたものを北海道に当てはめて行いました。基本的には街歩きをベースにして、Twitterでいろいろな情報を投稿し、その情報を見ながら、防災に向けて注意すべきこと、SNSをどう活用するか、災害発生時にどうすべきか、テーマを出しながら意識づけを図りました。我々がコーディネートし、必ず班に数人の学生を入れて、学生も話し合いに参加したり、発表したりする形を取りました。地元の人も絡んでもらい、まちづくりに携わっている人を呼んで、普段のまちづくりに防災の視点も入れてもらいました。

 このほか、湘南キャンパスの地元である伊勢原では避難訓練を、大磯では地域防災リーダー研修会を行いました。熊本も今企画している段階で、年度内には行いたい。地域ごとに特徴があるので、それぞれの特性を考えた企画を考えています。

 

 ──安心安全事業を取り組まれる中で、災害に強いまちづくりには、何が一番大事だとお考えですか。

 息を長く、継続的に行うことが何より重要です。最近の災害は、地震、津波、高潮、強風など災害のタイプも多様化しており、台風と土砂災害など複合的に発生する場合も多く、さらには想定をこえる規模となっています。北海道地震で起こったブラックアウトのように、大規模で広域的な災害は大きな事故を引き起こします。財政的な制約もあり社会基盤施設(インフラ)の更新や新設が難しくなっており、効率的な整備が求められます。レジリエント(弾力性がある、 回復力がある、 しなやかで強い、強靭な)という言葉の通り、災害に耐えうるような余裕のある整備水準に加え、ハード整備だけではなく、ソフト対策と併せて、検討する必要があります。また、大規模災害では災害を完全に防ぐことは難しく、いかに減災していくかという視点も大事になってきたと言えるでしょう。

 

 ──「人と街が調和するエネルギーシステム」というテーマにも取り組まれていますね。

 化学系、電気系、機械系の先生方が開発されている新たな発電システムや電送システムなどのエネルギーシステムをどのような場所に配置すれば、効率的に利用しながら市民生活の質を向上させることができるかを研究しています。土地利用という点では災害に強いまちづくりという意味でつながっていて、環境にやさしいという点も考慮して、「防災と環境」をキーワードに研究しています。

 自動運転など現在、社会システムが大きく変わろうとしています。どのような未来の都市をつくっていくかということが、我々土木の分野でも取り組むべき大きなテーマとなっています。

 

 ──東京オリンピックを控えていることもあって、今は土木・建築系が学生に人気が高まっていると思いますが、若い人たちへのメッセージをお願いします。

 土木は都市だけでなく、山岳、河川、海洋、地下など多様な地形や地質の場所で道路や橋などを建設しており、その現場・現場に適した設計やデザイン、施工方法で対応していかなければなりません。そういう意味では、人々の知恵を結集してモノをつくりあげていくという醍醐味があります。最近、防災に興味を持っている学生も多いですが、防災もまだまだやることが多く、いろいろなことにチャレンジできるという魅力もあります。仕事場も日本だけでなく、海外もアジアや中東を中心に増えていますし、市民生活に欠かせない社会基盤を支えているというやりがいもあります。このように夢のある分野なので、ぜひ土木の門を叩いてほしいですね。

 

注1

文部科学省が国内の大学を対象にして、「地域社会との連携強化による地域の課題解決」や「地域振興策の立案・実施を視野に入れた取り組み」をバックアップした施策。"COC"は"Center of Community"の頭文字を取った略語。「地(知)の拠点整備事業」とも言われている。2013年度に始まり、補助期間は最大5年間となっていた。

工学部 土木工学科 教授 梶田 佳孝 (かじた よしたか)

九州大学工学部土木工学科卒業、同大学大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。博士(工学)取得。 1996年より九州大学工学部助手、2012年東海大学工学部土木工学科准教授を経て、2016年より教授。専門は防災、都市計画、交通計画。主な著書に『まちおこし・ひとづくり・地域づくり』(共著)、『道路の計画とデザイン』(共著)、『都市の交通計画』(共著)など。