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モリシの熊本通信

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問われる報道する側の姿勢 /佐賀

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 死者・行方不明者44人を出した雲仙・普賢岳噴火災害(1990~96年)の脅威と教訓を伝承する施設「雲仙岳災害記念館がまだすドーム」(長崎県島原市)が今年4月1日、リニューアルオープンした。再現ドラマをテレビで見たことは何度かあったものの、当時の状況についてしっかり学んでおきたいと考え、これを機会に足を運んでみることにした。

 熊本港から島原港まで私の利用したカーフェリーで1時間。港から車を10分ほど走らせると、もうそこは施設だ。恥ずかしながら、熊本からこれほど近い場所だったという事実に驚いた。

 施設は、トランポリンやクライミング施設が設置してあり、乳幼児が遊べる北欧製の玩具も置いてある。ちょっとしたテーマパークのようだ。多くの家族連れでにぎわっており、新たな客層の掘り起こしに成功していると感じられた。

 一方、常設展示エリアに足を踏み入れると、雰囲気は一変する。火砕流や土石流のスピードを体験することができる展示。焼き尽くされた当時の被災地の状況を再現したジオラマ。発災当時の様子を再現ドラマで振り返る、映像がきめ細かな「4K」のシアター。まるで自分が被災したかのような没入感に、胸が苦しくなった。

 工夫を凝らした展示の数々。しかしながら、私にとって最も印象的だったのは、あるシンプルなパネルであった。

 そこに掲載されていたのは、当時を知る関係者による、いくつかのコメントだ。市職員(当時)男性は、避難勧告が出ている中、報道陣らに避難を再三呼びかけていたが、「取材することが使命だから」と断られたという。消防団員(当時)男性は「自然の脅威に対する人間の認識の甘さが災害を大きくした」と振り返っている。

 政府の中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」は、過熱報道により避難勧告地域での撮影が続けられたため、報道関係者、そして警戒にあたっていた警察・消防関係者から犠牲者が出たとの報告書をまとめている。

 報道する側が、使命感を胸に取材活動を行うのは当然のことである。しかしながら、使命感を「盾」に、安全をないがしろにしたり、取材地の人々に迷惑をかけたりすることは、決してあってはならないことだ。雲仙・普賢岳噴火災害の教訓は、我々報道関係者こそ自ら胸に刻む必要があると強く感じる。


 ■人物略歴

田中森士(たなか・しんじ)

 マーケティング会社「クマベイス」(熊本市)代表取締役、ライター。熊本県立高常勤講師、全国紙記者を経て古里の熊本市で起業した。熊本地震後は、復興支援活動に携わりながら、執筆やイベントを通し、被災地の現状を伝えている。モリシは愛称。熊本市南区在住。

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