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華恵の本と私の物語

/28 ゴースト

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 先月末せんげつまつ裕子ゆうこから、電話でんわがあった。4かげつぶりの連絡れんらくだ。どうしたのだろう。

     「……もしもし?」

     「ハナエちゃん。コンタが、んじゃったよ」

     裕子ゆうこきじゃくっている。すぐに彼女かのじょいえかった。

     裕子ゆうこおおげんかしたのは、なつ何回話なんかいはなしても、おたがいにいたり、おこったり。仲直なかなおりはできなかった。

     裕子ゆうこいえくと、リビングのソファに、タオルにつつまれたコンタがよこたわっていた。

     1週間前しゅうかんまえ、コンタはマフラーのをのみんだ。病院びょういんでは「ねこは、毛玉けだま消化しょうかするから」とわれたが、どんどんよわっていった。今朝けさふたた病院びょういんってあずけてきたが、昼過ひるすぎに病院びょういんから「呼吸こきゅうまりました」と電話でんわがあった。コンタがはじめ、のどまらせたのだ。

     「いてもいい?」

     裕子ゆうこはうなずいてくれた。

     うでなかのコンタは、ぎゅっとじ、なにかを我慢がまんしているみたいな表情ひょうじょうだ。あしがらず、あたまかたくなっている。やんちゃなねこだったから、こんなにじっとしていることが不思議ふしぎだった。

     そのあと、わたしと裕子ゆうこは、ねこのかぶりものをコンタにつけてあそんだ。まえまわったから、この機会きかいにやるぞー、とわらいながらも裕子ゆうこからながれるすじまることはなかった。コンタは、だんだんおだやかにねむかおつきにえてきた。

     時刻じこく午後ごご。そろそろかえらなきゃ。わかれをおうとソファのコンタにかおちかづけ、「コンちゃん、またね」とって、ハッとした。明日あす午前中ごぜんちゅうには、コンタは葬儀屋そうぎやによってからだかれてしまう。「また」はない。裕子ゆうこきながら、「コンタ、いた? ハナエちゃんが『またね』だって。ばかだねー」とわらった。

     わたしは感情かんじょうがあふれた。コンタ、よく頑張がんばったね。コンタ、わたし、ひさしぶりに裕子ゆうことなりにいるよ。やっぱり、あんなけんかでわるわたしたちじゃないよ。ねぇ、てる? コンタ。

     このちいさなからだなかにもうたましいがいないなら、いっそのこと、幽霊ゆうれいでもおけでもいいから、てきてほしい……。そうおもった。

      + + + + 

     1週間後しゅうかんご。わたしはからっぽの気持きもちで図書館としょかんにいた。本棚ほんだなにある『ゴースト』がはいった。

     おけがてくる物語集ものがたりしゅう。でも、こわくはない。戦後せんご原宿はらじゅくいえんでいた女性じょせい幽霊ゆうれいになって現代げんだいわか男性だんせいあいはなし上野うえのくるまにひかれた貧乏びんぼう男性だんせい幽霊ゆうれいが、育児放棄いくじほうきされているおんなこころかよわせるはなし

     おけの存在そんざいが、こころあたためる。こんなふうにコンタもてきてくれたらな。

     幽霊ゆうれいいたいとおもうなんて、おかしいけど。それでも、どこかでひょっこり、またいたいものだ。


    『ゴースト』

    中島京子なかじまきょうこちょ

    朝日新聞出版あさひしんぶんしゅっぱん 1512えん


     エッセイストの華恵はなえさんが、ほんにまつわるおもきなほん紹介しょうかいします

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